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 「進むしかない、というのは、なんて残酷なのだろうな」

 きっと、喪に服しただれかの独り言だった。
 『止まることを許された人間だけが、灰になる権利を有する』
 権利と宣うのはあまりにも不謹慎だろうか。
 だが確かに、彼は打ちひしがれる誰かを見ていた。

 それは当たり前の話。
 誰が消えても。何を成しても。どんな結果が残っても。
 頭上を太陽が一周したら24時間経って。
 今より24時間後は、明日なのだ。
 これは定義の話。言語の話。
 故に自身の意思とは関係なく時間は刻まれる。
 
 ……誰が、歩行だと言ったのだろう。誰が進行だと言ったのだろう。
 僕らは生きているだけで、停滞を許されない生き物であった。

 ああ、それでも。
 打ちひしがれた誰かは、いつかの未来に何かを成すだろう。
 ならば僕らは泣いても喚いても、尻を叩かなければなるまい。
 ならば僕らは、やっぱり進むしかないのだ。 

【明日に向かって歩く、でも】

1/21/2025, 8:54:23 AM