この道はなんだかずっと工事中だ。日が落ちて誰もいない道路の脇に、オレンジのフェンスが並んでいる。両手を繋いだように太いパイプの電飾が続いていた。
「こういうの好きなんだ」
並んで歩きながらあなたが言った。
「ここから始まった光がさ」
フェンスに近づいて端を指差す。
「すごい勢いで向こうに走ってくみたいに見えるでしょ?」
実際は時間差で順に点滅してるだけだ。分かってはいても言われてみれば確かにそう見えた。
「ただ走るために生きてる感じで」
永遠みたいに走って消える光の明滅。
大切なものを壊してやりたかった。
それであなたに近づいたのに。
それは困るなぁとあなたは笑った。
あんたまだ死ぬのいやでしょ?
「生きてくってそんなもんかも。意味なんてないんだよ」
だからしたいようにしていいよと道の真ん中で両手を広げ、あなたは静かに目を閉じた。
『大切なもの』『それでいい』
真夜中に強まる風の桜吹雪
こんなにも近くに濃い香り
はじめてのあなたの温もり
日付が変わるさかいめで
もう少しだけこのままで
嘘だよとまだ言える余地
ちゃんと残してあげるから
『エイプリルフール』
もう会わないつもりでいると思ったのに、ある日君に呼び出された。 自販機のボタンから「あたたかい」が消える頃だった。
ゴトゴト音を立てた機械の前にしゃがみ込んで、君は二本まとめて缶を取り出す。一本ずつ取らなきゃいけないんだよ、と私はもう言わなかった。
差し出されたミルクティとカフェオレ。ほんのしばらく迷ってから、私はミルクティを選んだ。君は僅かに眉を寄せて、チラリと地面に目を落とした。
知ってるよ。君が目線を落とすのは何か不満がある時だ。左の方を見るのは噓を吐こうとしてる時、右は記憶を手繰り寄せている時。
けれどこの直後、君は黙って私を見つめた。今までに一度もなかった。心の奥まで見られる気がして、缶を開ける振りで私が目を伏せた。
『My Heart』『見つめられると』
近頃のネットのアルゴリズムはすごい。このデバイスの持ち主が調べたものばかりが、即座に反映して表示される。
あたしのパソコンは今や、発毛剤と、持病があっても入れる保険だらけになった。一気に老け込んだ気分になる。なんと根暗なやり口なのか。
YouTubeを観ていても何かを検索していても全部見事にそればかりだ。
どのみちどこにもないもんな、あたしのほしいモノなんか。ネットのおすすめ広告になんて出てこない。あたし自身にだってよく分かんないんだから。
言われて初めて欲しかったって気づいた。あんたを羨ましいって思った。好きじゃなかったはずなのに、居なくなって初めて大切だと知る恋だった。
『好きじゃないのに』『ないものねだり』
駅前の愛用スーパーが全面改装で閉店して一週間。冷蔵庫がほとんど空になった。ギャグマンガみたいに、まじでなんも入ってない。
仕事帰りに遠くの店まで行く気になれず、 休日の今日こそ買い出しに出るつもりだった。なのに予報はところにより雨。起きた頃に覗いた地面は乾いていたのに、ベッドでウダウダしているうちにざあっと強い音がした。雨雲レーダーを眺めても、一旦止んではまた降るような際どい雲行きだ。
今日はもう、買い置きのカップ麺でいいや。部屋着のまま、もう一度ベッドにもぐりこむ。徒歩15分のコンビニに行くのさえ面倒だ。頼りにしてたものが消えるダメージに、じわじわとやられている気がした。
ところにより雨なんて一番タチが悪い。いっそのこと一日ザーザー降っていてくれればまだ諦めもつくのに。
カーテンの端を引っ張る。変に明るい窓を雨粒が伝い、水滴同士がくっついて星のようにスッと流れた。
いっそのこと思い切り嫌わせてくれたら、まだ諦めもつくのに。
『特別な存在』『ところにより雨』