未知亜

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4/5/2026, 9:53:07 AM

 この道はなんだかずっと工事中だ。日が落ちて誰もいない道路の脇に、オレンジのフェンスが並んでいる。両手を繋いだように太いパイプの電飾が続いていた。
「こういうの好きなんだ」
 並んで歩きながらあなたが言った。
「ここから始まった光がさ」
 フェンスに近づいて端を指差す。
「すごい勢いで向こうに走ってくみたいに見えるでしょ?」
 実際は時間差で順に点滅してるだけだ。分かってはいても言われてみれば確かにそう見えた。
「ただ走るために生きてる感じで」
 永遠みたいに走って消える光の明滅。

 大切なものを壊してやりたかった。
 それであなたに近づいたのに。
 それは困るなぁとあなたは笑った。
 あんたまだ死ぬのいやでしょ?

「生きてくってそんなもんかも。意味なんてないんだよ」
 だからしたいようにしていいよと道の真ん中で両手を広げ、あなたは静かに目を閉じた。

『大切なもの』『それでいい』

4/2/2026, 8:34:54 AM


真夜中に強まる風の桜吹雪
こんなにも近くに濃い香り
はじめてのあなたの温もり

日付が変わるさかいめで
もう少しだけこのままで

嘘だよとまだ言える余地
ちゃんと残してあげるから


『エイプリルフール』

3/29/2026, 9:57:11 AM

 もう会わないつもりでいると思ったのに、ある日君に呼び出された。 自販機のボタンから「あたたかい」が消える頃だった。
 ゴトゴト音を立てた機械の前にしゃがみ込んで、君は二本まとめて缶を取り出す。一本ずつ取らなきゃいけないんだよ、と私はもう言わなかった。
 差し出されたミルクティとカフェオレ。ほんのしばらく迷ってから、私はミルクティを選んだ。君は僅かに眉を寄せて、チラリと地面に目を落とした。

 知ってるよ。君が目線を落とすのは何か不満がある時だ。左の方を見るのは噓を吐こうとしてる時、右は記憶を手繰り寄せている時。
 けれどこの直後、君は黙って私を見つめた。今までに一度もなかった。心の奥まで見られる気がして、缶を開ける振りで私が目を伏せた。


『My Heart』『見つめられると』

3/27/2026, 9:28:42 AM

 近頃のネットのアルゴリズムはすごい。このデバイスの持ち主が調べたものばかりが、即座に反映して表示される。
 あたしのパソコンは今や、発毛剤と、持病があっても入れる保険だらけになった。一気に老け込んだ気分になる。なんと根暗なやり口なのか。
 YouTubeを観ていても何かを検索していても全部見事にそればかりだ。
 どのみちどこにもないもんな、あたしのほしいモノなんか。ネットのおすすめ広告になんて出てこない。あたし自身にだってよく分かんないんだから。

 言われて初めて欲しかったって気づいた。あんたを羨ましいって思った。好きじゃなかったはずなのに、居なくなって初めて大切だと知る恋だった。

『好きじゃないのに』『ないものねだり』

3/26/2026, 9:47:37 AM


 駅前の愛用スーパーが全面改装で閉店して一週間。冷蔵庫がほとんど空になった。ギャグマンガみたいに、まじでなんも入ってない。
 仕事帰りに遠くの店まで行く気になれず、 休日の今日こそ買い出しに出るつもりだった。なのに予報はところにより雨。起きた頃に覗いた地面は乾いていたのに、ベッドでウダウダしているうちにざあっと強い音がした。雨雲レーダーを眺めても、一旦止んではまた降るような際どい雲行きだ。
 今日はもう、買い置きのカップ麺でいいや。部屋着のまま、もう一度ベッドにもぐりこむ。徒歩15分のコンビニに行くのさえ面倒だ。頼りにしてたものが消えるダメージに、じわじわとやられている気がした。
 ところにより雨なんて一番タチが悪い。いっそのこと一日ザーザー降っていてくれればまだ諦めもつくのに。
 カーテンの端を引っ張る。変に明るい窓を雨粒が伝い、水滴同士がくっついて星のようにスッと流れた。

 いっそのこと思い切り嫌わせてくれたら、まだ諦めもつくのに。


『特別な存在』『ところにより雨』

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