短くした髪には、まわりじゅうみんな気付いてくれた。
「一気に切ったねえ」
「可愛い」
「短いのも似合ってるよ」
とってつけたような誉め言葉が空々しい。私が髪を切った理由など、たぶんクラスメイト全員知ってる。予想通りの後悔と共に、私は返事をする。
「ずっと切りたかったんだー。さっぱりしたよー」
曖昧に笑うクラスメイトの中で君と目が合う。
「寒くない?」
すっかり友達の顔が尋ねる。
寒いに決まってんだろ! 誰のせいだと思ってんだ大馬鹿野郎ッ!
なんてことを叫ぶ代わりに、
「寒ーい」
とおどけて、私は自席に着いた。
『寒さが身に染みて』
飲んだこと無いなんて、嘘でしょ?
会話が途切れた隙にすっかり赤くなった顔へ尋ねたら、半個室の薄暗い明かりの下でジョッキ片手にきみが笑った。
『20歳』
1月12日(月祝)午前 11:00~
東京都立産業貿易センター浜松町館2階南で開催の「第3回もじのイチ」に出展します。
こちらで書いてきた短編を再編し本にまとめました。無料配布もあります。入場無料です。
参加される方いらしたら、ご一緒に楽しみましょー!
【イ18】如月堂 日下めぐる名義
「ねえねえ、昔のアニメにこんなのなかった?」
鞄から取り出した円柱っぽいなにかを美咲が空に掲げる。
「先っぽにこういうモチーフ? が付いててさ、変身するやつ」
「あー」
手にしたなにかは黒い影になって、空に浮かぶ細く丸い縁に寄り添う。
「なによそれ」
「え、メガネケース」
えへへと振り向いたあなたの頭上に、輝く三日月。
『三日月』
わたしには、この世界が色彩に見えるよ。
来る途中で読み終わった本について話すあたしに、君はそんなようなことを言った。
あたしの頭に、君と一緒に観た絵画が浮かぶ。シャガールのブルー、魁夷のグリーン。惹かれる色彩は君とどこか似ていた。
長い映画を見終わって、暗い劇場から外に出た瞬間の、景色が輪郭を際立たせる感じ。真夏のプールから見上げた空の眩しさ。あたしにとって色彩は、たぶんなにか特別の響きがある。
それ以上なにも言わず、君は薄く微笑んだ。あの時君に線を引かれた。色とりどりの綺麗な線を。
『色とりどり』
建物に入る前は冷たいを通り越して痛みさえ感じた手が、ぽかぽかと熱を発している。エスカレーターで後ろに立ち、茶色いつむじを見下ろして、右手を閉じたり開いたりした。サラサラのロングヘアが不意に振り返って微笑み、また前を向いた。そこにいるのを確かめるみたいに。
インフォメーションに掲示された天気予報によれば本日の気温は今季最低で、日中もほとんど上がらないらしい。なのに身体の中がこんなにも温かい。ショッピングモールの空調が効きすぎていただけではないだろう。
自動ドアを二度くぐると冷たい風が吹き付けた。
「あ」
こちらを見ることなく綺麗な指が天を指す。横顔は耳まで赤い。
「雪」
落ちてくる白と、もう友だちじゃなくなった隣と。とちらをも指す音だけど、明確に異なるアクセントで呼びかける。
「ユキ」
やっとこっちを見てくれた赤らんだ指先に自分のそれを重ね、そっと引いて歩き出す。
『雪』