未知亜

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 建物に入る前は冷たいを通り越して痛みさえ感じた手が、ぽかぽかと熱を発している。エスカレーターで後ろに立ち、茶色いつむじを見下ろして、右手を閉じたり開いたりした。サラサラのロングヘアが不意に振り返って微笑み、また前を向いた。そこにいるのを確かめるみたいに。

 インフォメーションに掲示された天気予報によれば本日の気温は今季最低で、日中もほとんど上がらないらしい。なのに身体の中がこんなにも温かい。ショッピングモールの空調が効きすぎていただけではないだろう。

 自動ドアを二度くぐると冷たい風が吹き付けた。
「あ」
 こちらを見ることなく綺麗な指が天を指す。横顔は耳まで赤い。
「雪」
 落ちてくる白と、もう友だちじゃなくなった隣と。とちらをも指す音だけど、明確に異なるアクセントで呼びかける。
「ユキ」
 やっとこっちを見てくれた赤らんだ指先に自分のそれを重ね、そっと引いて歩き出す。

『雪』

1/8/2026, 4:51:56 AM