未知亜

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1/11/2026, 9:56:18 AM


 飲んだこと無いなんて、嘘でしょ?

 会話が途切れた隙にすっかり赤くなった顔へ尋ねたら、半個室の薄暗い明かりの下でジョッキ片手にきみが笑った。

『20歳』


1月12日(月祝)午前 11:00~
東京都立産業貿易センター浜松町館2階南で開催の「第3回もじのイチ」に出展します。
こちらで書いてきた短編を再編し本にまとめました。無料配布もあります。入場無料です。
参加される方いらしたら、ご一緒に楽しみましょー!
【イ18】如月堂 日下めぐる名義

1/10/2026, 9:06:40 AM

「ねえねえ、昔のアニメにこんなのなかった?」
 鞄から取り出した円柱っぽいなにかを美咲が空に掲げる。
「先っぽにこういうモチーフ? が付いててさ、変身するやつ」
「あー」
 手にしたなにかは黒い影になって、空に浮かぶ細く丸い縁に寄り添う。
「なによそれ」
「え、メガネケース」
 えへへと振り向いたあなたの頭上に、輝く三日月。


『三日月』

1/9/2026, 9:57:29 AM

 わたしには、この世界が色彩に見えるよ。
 来る途中で読み終わった本について話すあたしに、君はそんなようなことを言った。

 あたしの頭に、君と一緒に観た絵画が浮かぶ。シャガールのブルー、魁夷のグリーン。惹かれる色彩は君とどこか似ていた。

 長い映画を見終わって、暗い劇場から外に出た瞬間の、景色が輪郭を際立たせる感じ。真夏のプールから見上げた空の眩しさ。あたしにとって色彩は、たぶんなにか特別の響きがある。

 それ以上なにも言わず、君は薄く微笑んだ。あの時君に線を引かれた。色とりどりの綺麗な線を。


『色とりどり』

1/8/2026, 4:51:56 AM

 建物に入る前は冷たいを通り越して痛みさえ感じた手が、ぽかぽかと熱を発している。エスカレーターで後ろに立ち、茶色いつむじを見下ろして、右手を閉じたり開いたりした。サラサラのロングヘアが不意に振り返って微笑み、また前を向いた。そこにいるのを確かめるみたいに。

 インフォメーションに掲示された天気予報によれば本日の気温は今季最低で、日中もほとんど上がらないらしい。なのに身体の中がこんなにも温かい。ショッピングモールの空調が効きすぎていただけではないだろう。

 自動ドアを二度くぐると冷たい風が吹き付けた。
「あ」
 こちらを見ることなく綺麗な指が天を指す。横顔は耳まで赤い。
「雪」
 落ちてくる白と、もう友だちじゃなくなった隣と。とちらをも指す音だけど、明確に異なるアクセントで呼びかける。
「ユキ」
 やっとこっちを見てくれた赤らんだ指先に自分のそれを重ね、そっと引いて歩き出す。

『雪』

1/7/2026, 9:04:14 AM

 どんな顔で手を振ったものやら、あまり記憶になかった。良くない考えがわっと襲ってきて頭が爆発しそうになる。感情が渦巻く。考えが追いつかなくなる。
『オッケー、多分そっちじゃないんだ。この方法は一旦おしまい』
 君の留める声がする。立ち止まり、ようやくそっと息を吐く。
 自分ではない視点で考えること、反対の意見を想像すること。そのうえで、嫌だと感じたらやめること。あの頃よりは随分上手くできるようになった。
 君と離れてからも、私の中にはたぶん君がいて。君ならどう言っただろうと考えればなんて乗り切れる気がしてる。
 そばにいてもいなくても、一緒にいることはできるから。最後に握った手のあたたかさを思いながら、断りの連絡をするために私はスマホを取り出した。

『君と一緒に』

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