「良い香りだね」
「でしょ? 誰が作ったと思ってんの?」
「そうでした」
「ふふっ。世界に一個しかないキャンドルだからね」
「え? まじで」
「まじで。今日のために作った」
「もったいない、消そう!」
「は?」
「だって、来年も使いたい!」
「大丈夫! また作るから」
「ほんと? おんなじやつだよ? この、緑と赤でキラキラしてる感じも、淡い黄色がいい感じにグラデってるのもだよ? この炎の感じもだよ?」
「そこまでは無理」
「えー、だったら——」
「来年はまたその時の気持ちで作るから。おんなじにはならないよ」
「……そっか」
「消える頃、ちょうどクリスマス当日になると思う」
「じゃ、それまでお喋りしてようよ」
「いいよ」
「……あのね、昔ね、すごく気が合うと思ってた人がいたんだ」
「うん」
「好きなものが同じで、食事に行ったら同じメニューで迷ったりして。足して分けるとちょうどいいねって」
「うん」
「でも、そのうち違うことが出てきてさ。当たり前だよね、違う人間なんだから」
「……うん」
「結局、向こうが私に合わせてくれてただけだったんだよね」
「……それで?」
「うん、それで思った。 誰かと本当に気が合うことって、同じもの見て同じものを食べて『幸せだね、美味しいね』って同じバランスで分かち合える相手なんて、いないんじゃないかって」
「ふーん……」
「でも、この人はもしかしたらそうかもしれないぞって、ずっと考えたくはあって。考えてるうちに人生終わるくらいがちょうどいいのかもって」
「うん?」
「だからね」
「うん」
「ありがと! ってこと!」
抱きついた風で揺れるキャンドル。
Happy Merry Christmas🎄✨️
『揺れるキャンドル』
渦を巻くように光が広がって、画面いっぱい真っ白になる。光の回廊を歩き出す後ろ姿からカメラはふわりと浮き上がり、晴れ渡る空に重なってスタッフロールが流れ出す。
もう何度も見たエンディングだ。
アテンダーが笑顔でドアを開いてくれたとき、私の心に浮かんだのはまさにその光景だった。ゲームクリアしたような気持ちよさ? 祝福に満ちた雰囲気? それもあるけどそれだけじゃない。ここから始まるんだという予感めいたもの。
差し出された君の手をぎゅっと握り返す。ほんのひととき見つめ合い、花びらと眩しさに満ちたを私たちは進む。
『光の回廊』
いくら降っても積もらない雪もある。あたたかい部屋から眺めて歓声を上げるだけの雪も。
だけどこれは真正面から吹き付けるやつ。サラサラと耳障りよく、だけど積もるとヤバいやつ。時間とともに固まって蹴ってもびくともしないやつ。いつまでも溶け残って、寒い季節に囚われるやつ。
気づいたときにはもう手遅れ。
あなたに見つめられるたび、私の庭は白く埋まる。
『降り積もる想い』
肩書きの違う相談員を前に何度も同じ話をしてきた。自分の言葉に替えるのがいいのだと促されて。淀みなく尤もらしく身の上話が口から流れ、遠隔操作の気分になる。
お話あのね。幼い頃はそう言って思いつくまま話せた。あの頃と同じように手のひらをうえに向け、小指同士をトントンとたたき合わせてみる。
渡されたお菓子の包みを握り締めたら、緑と赤のリボンが優しく絡む。何をどれだけ話しても聞いてもらっても、どこか作り物みたいだけど。あの頃の記憶を、無条件の安心を、ひとりぼっちの今こんなにも望む。
『手のひらの贈り物』『時を結ぶリボン』
電車から降りると、冷たい風が吹き付けた。あたたまった身体から急速に熱が奪われていく。歩きながらマフラーを取り出しぐるぐる巻いた。きしむ指先に息を吐きかけて、同じことを君がしてたなとおかしくなる。
駅を出たら真正面に夕空。薄い桃と紺の境目が、絵の具に水を垂らしたように曖昧になる。
私の知らないところで、できたら今日も何かに笑っててほしい。たまに揺さぶられて空を見上げても、明るく健康的に日々を送れていますように。
寒くなるとやはり思い出してしまうな。心の片隅で君の幸せを願うよ。そんくらいでたぶんちょうどいい。真ん中に置いてしまうと、なんだか重たいからね。
『心の片隅で』