生まれた日が隣同士だと知ったのは出会った年の秋だった。運命だとか神さまだとかすぐ持ちだしちゃうあたしに、君はただ苦笑を返した。だけどやっぱりこれは、運命だと思うんだ。
五度目の゙今日を跨いで、あたしは隣のぬくもりを握る。あんなに恨んだ神さまに、節操もなく感謝する。
「誕生日おめでとう」
戻ってきた昨日と同じ言葉に、あたしは笑顔で頷く。
君と紡ぐ物語が、また始まる。
『君と紡ぐ物語』
かける言葉が見つからない。否、なにもかけるべきではないのかもしれない。どんなに言葉を尽くしたところで、私の経験しない世界にあなたはいる。
廊下からドアに触れ、私は願った。今すぐは無理でも。どうか温かな平穏があなたを包んでくれますように。
『失われた響き』
起きたら部屋中肉の匂いだった。
狭いこたつの上が、まさに肉で埋まっている。野菜も魚も、うどんや白飯もない。見事に肉だけ。以上。
「おそよう」
皮肉たっぷりに里香が言った。ごっくんと肉をのみ込んで。
「全然起きないんだね。あたしが泥棒だったら今頃死んでたよ」
泥棒は物を盗めればそれでいいのであって、寝ている者をわざわざ殺す必要がどこにあるのかと思ったが、面倒でやめた。
「どうしたの? この肉」
一応訊いてみる。
「もらってきた。あいつん家から」
予想通りの答えだった。
「それこそ泥棒したんだろ?」
「存在ごと消しちゃえばわかんないよ」
あんたも食べな、と里香は箸でつまんだ肉をひらひら振る。
朝から立派な霜降りだった。
『霜降る朝』
目の前でドアが閉まった。大きな揺れに身体を取られないよう踏ん張ると、先ほどまで座っていた場所にリュックの男性が座るのが見えた。ずり落ちそうになるストラップを慌てて捕まえる。
二駅前までは記憶があった。気づいた時には知らない駅で、発車アナウンスが流れていた。車内は乗った時より混雑している。大きなターミナルを過ぎたのだろうか。
諦めてドアにもたれる。ついでに床に鞄を置いた。聞いたこともない駅名と乗り換え先が丁寧に二度と繰り返された。
列車が再び停まり、開いたドアからホームに降りる。どこかで折り返さなくては仕方ない。幸い、向かい側が反対方向行きだった。島式ホームと呼ぶのだったか。
人波を見送って歩き出したところで、鶏皮の焦げる匂いがした。見下ろした広場に屋台が出ている。途端に盛大に腹が鳴った。
「心の深呼吸、ねえ」
リラックスできる呼吸法、なんて記事を見かけて早速昼休みに試していたら、先輩に言われた言葉だ。そっちのほうが、足りてないんじゃないの?
「よし」
鞄を肩に掛け直してホームを通り過ぎ、改札へと俺は歩き出した。
『心の深呼吸』
ジャージで過ごした翌日にワンピースを着てくるひとだった。不誠実を見過ごせず、朗らかによく笑う。そんなところが好きだと思った。
あの日前屈みに教卓にもたれた脇から、無防備に白がのぞくのを、周りの男子たちがニヤニヤ見ていた。当時流行った歌の文句に似ている、淡い水色に白の縦縞が入ったワンピースだった。袖から少しはみ出た糸が、隠しきれない幼さに見えた。
目の前で手が振られる。待ち合わせに現れたきみの、空を切り取ったようなワンピース。
「どしたの?」
見上げられ、私は笑う。
「かわいいから見惚れちゃって」
真実の一部分をクローズアップして言葉にすると、目の前のきみは「よしよし」と満足げに頷いた。
『時を繋ぐ糸』