起きたら部屋中肉の匂いだった。
狭いこたつの上が、まさに肉で埋まっている。野菜も魚も、うどんや白飯もない。見事に肉だけ。以上。
「おそよう」
皮肉たっぷりに里香が言った。ごっくんと肉をのみ込んで。
「全然起きないんだね。あたしが泥棒だったら今頃死んでたよ」
泥棒は物を盗めればそれでいいのであって、寝ている者をわざわざ殺す必要がどこにあるのかと思ったが、面倒でやめた。
「どうしたの? この肉」
一応訊いてみる。
「もらってきた。あいつん家から」
予想通りの答えだった。
「それこそ泥棒したんだろ?」
「存在ごと消しちゃえばわかんないよ」
あんたも食べな、と里香は箸でつまんだ肉をひらひら振る。
朝から立派な霜降りだった。
『霜降る朝』
11/29/2025, 9:57:17 AM