今年一番の寒気が、と日々言われるようになった。毎日のように更新するその重なりが冬を連れてくるのか。トーストをかじりながら私は考える。
誰もいないと自分からくっついてくれる冬のあなたが好きだった。薄暗い路地で陽の翳る公園で、分かち合うぬくもりを重ねることが、長い間私の冬だった。
『冬へ』
ブランコの揺れが停まった。君の靴裏が砂をこするザッという音が響く。
「裕君が思う程、あたしは強くないよ」
水筒を取り出して、君はごくごくと中身を飲んだ。白い喉が規則的に上下するのを、不思議な気持ちで僕は見ていた。
「誰かの力になれてるって思うことで、言い聞かせてただけなんだよね」
自分にも、価値があるってさ。
こんなに悲しげに笑う君を僕は初めて見た気がする。水筒を握る指の先が喉よりも白くなっていた。君のことを照らせたらいいと、その時僕は強く願った。
多分自分からは、決して輝けないけれど。
『君を照らす月』
目の下に広がる模様をゴシゴシこすっていたら、通りすがりに肩をぶつけられた。
「痛っ」
わざとらしく顔をしかめてみせるあたしに、
「そんなことしたって消えないよ〜?」
君はぐりぐり頭を押し付ける。
「わかってるよ」
鏡に向き直ったあたしは、エイジング乳液を手のひらにもう一回分追加した。
「私は好きだけどな。だって、」
鏡の世界で君が頬を寄せる。羨ましいほど白い頬。
「木漏れ日の跡みたいで」
自分じゃ好きになれないところさえ、そのまま肯定してくれた、あなたこそが木漏れ日だったよ。
『木漏れ日の跡』
また来ようよ。
戸口の暖簾に手をかざし、きみは少しよろけて笑った。
年末が二度過ぎても、忘年会のハッシュタグと並ぶ知らない顔を眺めているだけ。
約束したじゃんなんて思ってないよ。
『ささやかな約束』
人の優しさが染みた時、美しい景色にほろりとした時、やっぱりあなたを思い出す。
愛を込めるなんて柄じゃないし、幸せ願うのもなんか違う。だからこの気持ちはもう祈りのようなものかもしれない。
今日もまた。
あなたが笑っていますように。助けてくれる誰かが何かが、あなたと共にありますように。どうにかなるさと明るく諦めて、下手くそな鼻歌を歌えていますように。
ひそかな祈りを重ねたとて、先には何もないけれど。
『祈りの果て』