カーテンの隙間から差す朝日が目に痛い。握り締めたままの画面を性懲りもなく開き直した。私の送った言葉には読まれた証の付かないまま。
結局一睡もできなかった。昨夜から幾度となく眺めている言葉が、尚新鮮に心を抉る。
背もたれにしていたベッドにスマホを放り投げ、キッチンまで歩いて水を飲んだ。数歩あるいただけでくらくらするのは、空腹のせいばかりではないだろう。
外はあんなに晴れているのに。いつ溶けるとも知れない氷のような朝。
『凍える朝』
俯いたまま言いたいことだけ言って、あたしは大きく息をついた。いくら先輩が黙って聞いてくれてるとはいえ、自分勝手でほんと嫌になる。
先輩はしばらく無言だったけど、
「そっか。つらかったね」
とだけぽつり呟いた。
傾き始めた陽が先輩の向こうに見えた。額に手をかざし、あたしは先輩を見上げる。笑っているようだけど、逆光で暗くて表情がよく分からなかった。
「まぁ僕は麻美ちゃんのそういうとこ結構す、」
そこで不自然に言葉が切れた。思わず下から覗き込んだあたしと目を合わせた先輩は、ほんの一瞬だけ——多分まばたきの半分くらいの僅かさで——目を泳がせてから真剣にあたしを見据え、
「……ごいと思うけどさ」
と早口で付け足した。逆光のはずなのに、その時のあたしには妙に輝いて見えた。
『光と影』
馬鹿だ。馬鹿すぎる。
開封した段ボールを覗き、私はそれだけ呟いた。
荷物送ったから受け取りよろしくと父から珍しくメールがあり、てっきり米だと思ってしばらく放置していたら、送付伝票に「茹で栗」と書かれているのを夕方になって発見した。しかも一キロ。
「大丈夫大丈夫! 洗えば食える!」
電話の向こうで父は笑っていたが、こんな糸引いてる代物、どうやっても食べられるわけないだろー!!
そして、新聞紙につつまれたごみの袋だけが生まれた。
『そして、』
ドアの開く音がして時計に目をやる。深夜一時になるところだった。ダイニングにやって来た弘樹がチラリとこちらを見てからキッチンに入る。
「お茶? 冷蔵庫にあるよ?」
「いい」
蛇口から注いだ水を半分ほど飲み干すと、
「まだ見てんのかよ」
と、オーバーに呆れた声を出した。
「うん」
ビールの缶を傾け、私は満面の笑みで返事をする。
目の前の画面では、ブカブカの長靴とレインコートを着た幼い子どもが、水色の傘を広げてニコニコしていた。
「だって可愛いんだもん。あんたも見なよ」
パソコンの位置をずらしてやると、弘樹は四歳の自分の様子を遠目に眺め、
「知ってるし」
と同じ皺を寄せて笑った。
『tiny love』
待ち合わせた時よりは随分スッキリした顔で、手を振るきみが雑踏に紛れた。聞いてくれてありがとねって柔らかく笑って。まだ少し赤い目をして。
頼ってくれるのは嬉しいし、弱さをさらけ出してくれるのは信頼の証だとは思うんだけど。
彼の知らない裏側だけに詳しくなるのはちょっと切ない。
『おもてなし』