未知亜

Open App

 俯いたまま言いたいことだけ言って、あたしは大きく息をついた。いくら先輩が黙って聞いてくれてるとはいえ、自分勝手でほんと嫌になる。
 先輩はしばらく無言だったけど、
「そっか。つらかったね」
 とだけぽつり呟いた。
 傾き始めた陽が先輩の向こうに見えた。額に手をかざし、あたしは先輩を見上げる。笑っているようだけど、逆光で暗くて表情がよく分からなかった。
「まぁ僕は麻美ちゃんのそういうとこ結構す、」
 そこで不自然に言葉が切れた。思わず下から覗き込んだあたしと目を合わせた先輩は、ほんの一瞬だけ——多分まばたきの半分くらいの僅かさで——目を泳がせてから真剣にあたしを見据え、
「……ごいと思うけどさ」
 と早口で付け足した。逆光のはずなのに、その時のあたしには妙に輝いて見えた。

『光と影』

11/1/2025, 8:56:00 AM