未知亜

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4/23/2025, 9:05:36 AM


ㅤ送ったメッセージは、三日経っても既読にならなかった。美優の心には、昔のことがぐるぐる渦を巻きはじめている。
ㅤ最初に距離が近いと言われたのは小五の時だ。自分がなにか場にそぐわないことをしたらしいということはすぐに理解出来た。
ㅤけれど、友達がどうしてほしがっているのかは正直よく分からなかった。だから、「ごめんね」と笑うこと以外、美優には出来なかった。
ㅤそれからも、似たようなことはたびたび起きた。自分なりにいろいろ工夫しているのだが、「何考えてるかわからない」とか、「距離が近い」とか言われた。何もしないのが一番なのではと思って黙っていると、「なんか、美優ちゃん、壁を感じる」と笑われた。
ㅤ答えはいつも相手に握られているのだ。正解か不正解かは、後にならないとわからない。常に後出しじゃんけんわーされているような感覚。努力だけで太刀打ち出来るはずも無い。
「また、めんどくさい認定されちゃったのかなあ……」
ㅤスマホを握り締めたままベッドに倒れ込む。声に出して呟くと途端に寂しさに飲まれそうになった。
ㅤ大きくため息をついたところで、手の中の板がブブッと震える。
『ももたさんが画像を送信しました』
ㅤ横目でスマホを覗くと、画面上部に通知が表示されていた。
『取り急ぎこれだけ見せたくて!幸運の印だって(big love)』
ㅤbig love?ㅤなんだそれ?
ㅤ不思議に思いながら通知をタップする。空の写真が目に飛び込んできた。ビルの合間にくっきりとした虹が浮かんでいる。それも二重にだ。
「……ダブルレインボーだ」
ㅤ先月だったか、幸運の証だという会話をしたことを思い出した。
『詳しい話はまたゆっくり聴かせてね!︎‪』
ㅤ追加で届いたメッセージの最後で、ピンクのハートがくるくる回る。最初に届いたメッセージの末尾にも同じ絵文字が踊っていた。
ㅤそうか、これは地球の愛のおすそ分けかもしれない。
ㅤ美優の心があたたかいものでほんのりと染められていく。まさしく、big love! という感じ。
ㅤ背を伸ばしてベッドの縁に座り直すと、美優は口の端をキュッと上げ、お礼のメッセージを入力しはじめた。


『big love!』

4/22/2025, 9:22:57 AM

 最初のキスを交わしたときにわかった。別れがいまはじまったと。
「どうしたの?」
 涙をこぼす私にあなたは問いかけた。腕の力を緩めて、やさしく頬を撫でて。
 なにがどう違ったのか私にはわからない。なのに、違ってしまったことだけははっきりとわかった。心の奥にささやきが舞い降りる。そんな感じだった。
 説明できる言葉はない。木洩れ日の輝きや、風の香りや、あなたのぬくもりや、フィルムのように焼き付いて、この先何度も思い出しちゃうんだろうなと思うだけ。
 違う場所に来てしまったねとささやかれ、私は夢から引き戻される。引き戻されてやっと、これは夢だったのだと私は知る。
 大事なことばかり、いつも言葉にならない。

『ささやき』
 

4/21/2025, 6:50:24 AM

ㅤ夜に会ったことなどなかった気がする。桜舞うやわらかな陽に、微笑んでくれた顔。こちらを見てベンチから立ち上がる、待ち合わせの朝。
ㅤ胸の前で小さく振られた手がこの上なく愛おしかった。

ㅤなのにいま記憶のあなたは、なぜかほのかな星明かり。


『星明かり』

4/20/2025, 7:45:56 AM

ㅤ今日はもう帰りなさいと、言われるままに電車に乗って最寄り駅を降りた。日の沈まないうちにここを歩くのはどのくらいぶりだろうか。そう思うだけで、自分がひどく落ちこぼれてしまったような気がした。
ㅤ会社を出た時より長く伸びる影を見つめて歩く。さっきまではどこかホッとしていたくせに。自分がいてもいなくても、太陽は沈むし会社は変わらずまわるのだ。
ㅤ国道を大型トラックが、ガタガタ音を立てて走り抜ける。ピンク色の空にすっと伸びる街路樹は、まるで影絵の静けさのなか。


『影絵』

4/19/2025, 9:28:24 AM

ㅤ始まりはいつもどこか痛みを伴う感じがする。

ㅤ例えば街路樹のつつじを千切っては捨てる、根元の蜜の密やかな甘さだとか。
ㅤ眠っているような老女の座る文具店で、果物の香りの消しゴムを掴み取ったざわめきとか。
ㅤ人の言葉を盛って話したら、感心して膨らんだクラスメイトの鼻の穴とか。

ㅤそんなどれとも少しずつ似ていて、なんとなく違っている。始まりだなんて気づけなかった、君との恋の始まりの日。


『物語の始まり』

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