未知亜

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2/23/2025, 11:20:11 AM

ㅤそれはあなたの声。
ㅤ独特の響きが私を震わせ、水の中のように距離がわからなくなる。ありふれた名前さえ異国のメロディに変えてしまう。

ㅤそれはあなたの瞳。
ㅤ決して無理強いはせず、けれど断るなど思いもしていない視線が、私をやんわり動けなくする。隅々まで痺れさせてしまう。

ㅤそれはあなたの手。
ㅤ青白い肌の上で指先が踊り、朱に染め変えてはうずくまる。開かれた私の心は、たやすく追い抜かれてしまう。

ㅤ風のない夜は、あなただけの私。
ㅤ甘く苦しい魔法にかかりにくる私。


『魔法』

2/23/2025, 3:46:17 AM

ㅤ下を向いて歩いていたせいで、知らない人と肩がぶつかる。謝ろうとしたら、向こうが先に「ごめんなさい」と言った。
ㅤ明るさの混ざるその語尾に顔を上げる。周りを見れば、幾人かの人が空を指し、笑顔でカメラを掲げていた。見事な七色の橋。

ㅤ庭の朝顔に水を撒く後ろ姿。振り向いた君が、おそようと笑って手招きする。
『ほら、虹』
ㅤ縁側に腰掛けると、ピンクや紫の花弁にキラキラと光るプリズム。
『この世には、綺麗なものがたくさんあるんだねえ』
ㅤ落ち込んでる僕の背中を、いつもそっと押してくれる君の笑顔が大好きだった。

ㅤ果てしなく遠い空に、ほらと笑う君が重なる。黒いネクタイを解いて、僕は天のアーチを仰ぐ。


『君と見た虹』

2/22/2025, 4:30:19 AM

ㅤそろそろ寝なくちゃと部屋の明かりを消し、ベッドサイドのランプを灯した。布団をめくって寝転がると、ここまでのやり取りをスクロールしてみる。たっぷり十画面分遡った会話の始まりは、あなたからの「おやすみ」だった。

『なんかさ』
『「おやすみ」って言ってからが』
『長いよね、私たちw』

ㅤ心を読んだような返信に口許が緩む。眠ってしまうのが惜しくなる。
ㅤ潜り込んだ布団のなかから、またもや言葉が夜空を駆ける。


『夜空を駆ける』

2/20/2025, 3:42:48 PM

ㅤトーストを齧りながら、今朝の占いを見比べている。電車のなかで目に付いた、性格診断を試してみる。
ㅤ起きてから眠るまでに見た空を、好きそうかそうでないかに分類したり。誰かとのリプライの行間に、無理矢理本音を咀嚼してみたり。
ㅤもはや意味も答えも持たない分析を、あらゆる角度で私はつづける。二年経っても私の心は、たらればの深みに沈む。今夜もまばゆい虹色をした、はち切れそうな夢へと眠る。
ㅤすべての事実が私に囁く。あの人とは結局、上手くいかなかったはずなのだと。
ㅤはじまる前に消えてしまった、ひそかな想いの喪に服す。


『ひそかな想い』

2/19/2025, 4:34:52 PM

ㅤカーテンの隙間から洩れる朝陽で目が覚めた。彼は隣でまだ眠っている。初めて二人で迎える朝。ㅤㅤそっとベッドを出て先に身支度しておこうと思ったのに、「ん……」と小さな声がして彼は身動きしてしまう。ゆっくりと目を開けて「おはよう」と言った彼が、夢から戻りきらないような顔で呟いた。

「えっと……あなたは誰?」

ㅤ私は慌てて顔を覆った。明るいとこですっぴん、見せたくなかったのにー!

『あなたは誰』

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