ㅤ下を向いて歩いていたせいで、知らない人と肩がぶつかる。謝ろうとしたら、向こうが先に「ごめんなさい」と言った。
ㅤ明るさの混ざるその語尾に顔を上げる。周りを見れば、幾人かの人が空を指し、笑顔でカメラを掲げていた。見事な七色の橋。
ㅤ庭の朝顔に水を撒く後ろ姿。振り向いた君が、おそようと笑って手招きする。
『ほら、虹』
ㅤ縁側に腰掛けると、ピンクや紫の花弁にキラキラと光るプリズム。
『この世には、綺麗なものがたくさんあるんだねえ』
ㅤ落ち込んでる僕の背中を、いつもそっと押してくれる君の笑顔が大好きだった。
ㅤ果てしなく遠い空に、ほらと笑う君が重なる。黒いネクタイを解いて、僕は天のアーチを仰ぐ。
『君と見た虹』
2/23/2025, 3:46:17 AM