こんな夢を見た
僕は未来が見えてしまう
環境は常にかわり続ける
「あの、来月には引っ越す関係で、やめさせてもらってもいいですか」
僕は店長にそう告げてしまった
ここの職場を辞めた後のことを想像すると、喪失感が僕の胸にはできる
好きな人もいた、苦手な人もいた、好きな場所でもあったし苦手な業務もあった
しかし、それらがなくなるとどうしようもない絶望感とそして、大きな穴が空いているのを感じる
そんな事を考えながら最後の引き継ぎを僕は行っている
これが終われば、本当に終わる
ここに存在した僕はなくなる
でもこの職場は今まで通り回っていくことにも少し絶望する
僕の心が欠けていく、涙となって欠片がポロポロと落ちていくのを感じる
残ってる物を考えられるほど僕の心はもう残っていない
忙しくして紛らわすけど、それでは埋まらない、応急処置にしかならない
しかもやさしくつつむだけの包帯のようなもの
拙い力で必死に穴を隠すが、隠しきれない
この思いはこうして言葉に残す
心を言葉に移すことで僕はやり過ごす
タイムマシーン
「今日の同窓会でさぁ。もしもタイムマシーンがあったらってので盛り上がってたよ」
2人を残して誰もいない教室、隣の席で彼女、改め美咲(みさき)さんが言う
「名城くんはどう?どこに行きたい?」
僕に投げかけられて、少し考える
いや考える必要もなかった
「僕は中学の頃からもう一度やり直したい。友達を作らなきゃ」
「そうなんだ。あのときは勉強一筋って感じだったもんね」
「うん。それが間違いだったって今になって気づいたよ」
「今はそう思うかもだけど、どんなこともいつかは役に立つと私は思うかな」
「うん、そうなんだ。いつか、、」
「だから私は自分の過去に戻ったり、未来に行ったりは考えずに、思っきり昔の江戸時代とか行ってみたいと思う」
「あぁたしかに、興味深そう」
「タイムマシーンがあったら一緒に行こうよ!江戸時代。もう友達なんだし」
特別な夜
「おはようございます」
「おはようご、あれ?すごい汗かいてるけど、大丈夫ですか」
「昨日の夜は雪が降っていたんです」
「はい、、そうでしたね」
「昨日の夜は雪が降っていたんです」
「大丈夫ですか?」
「昨日の夜は雪が降っていたんです。下を見れば霞んで見えて、日和でした」
「はい?」
「昨日は無理でしたが、次に雪が降るときにはいけると思います」
海の底
『またここかぁ』
私は少しの浮遊感を感じながらもうずくまる
いつも見る夢
真っ暗で何もない場所に私は一人でいる
ここでは声を出すことができない
そして私が考えることはいつも同じである
バーミントさんのこと
小さい頃私は初めてバーミントさんのことを見て、魅了された
この人に近づきたい、この人みたいになりたい、それは強い憧れだった
それはまるで自分で自分を束縛しているよう
私の思考には自由がない
私はそんな不純な理由で軍へと入った
そこで運よくバーミントさんの側近として働かせてもらった
最近では休日まで共に過ごす日も増えていた
バーミントさんとの物理的な距離が近づくにつれて、本当の距離が遠いことに気づく
私はすごい人になんかなれない
「オリーブ!」
私は名前を呼ばれて目覚めた
「魔人が攻めてきた!すぐに支度をしてくれ」
バーミントさんのそんな言葉をきっかけに私は直ちに支度をする
この世界には神からの授かりものの『華』をもって生まれる女性が稀に現れる
その『華』とは、言わば魔王軍に立ち向かうための魔術、特殊能力なのである
私が住むこの小国にはそれをもって生まれた女性はいなかった
今目の前にいるバーミントさんにも華はない
しかし、バーミントさんは違っていた
華を持たずしても類まれなる身体能力、判断能力により、この国で最も強い剣士として名高い人物なのである
そしてその強さは、華を持たないこの国だけでなく、
華に溢れている世界においても、華を持たないバーミントさんが魔王に最も近い唯一の希望と見られている
それほどにバーミントさんは強い
世界最強の剣士なのである
私とバーミントさんは馬を走らせて、戦地へと到着した
朝だというのに空は真っ黒に染まっている
そこではもうすでに戦いが始まっていた
軍の仲間たちと、魔王軍の魔物たちとがそこらで戦っている
「私が来た!アンガス•バーミントだ!私が敵の首を取る!道を作れ!」
バーミントさんはそう猛々しく叫んだ
「「「おー!!」」」
バーミントさんの登場で戦況が一変したように感じた
仲間たちに活気が出て、バーミントさんが通る道を作るように攻め込んでいる
「さぁ行くぞ、オリーブ」
「はい!」
私はバーミントさんについていく
いつもそうだ
敵の首領、魔人がいる場所へと繋がる道を進む
私とバーミントさんはこの魔物たちの一団の首領と相対した
その姿はまるで人形のようだった
全身の節々にはわかりやすく関節が目立っており、その無機質な様相はまさしく人形劇の人形だった
それが私たちと変わらないようにそこに立っている様子は気持ち悪さを感じさせる
「キタナ、アンガス•バーミント、オマエ、サエ、イナケレバ、マオウグン、モ、セカイヲ、セイシタモ、ドウゼン」
その話し方や動きは肌を舐められるように違和感と気色悪さがあった
「そうか」
バーミントさんは馬から飛び降り、その魔物へと剣を構える
「キョウ、ココデ、オマエ、」
魔人の首は宙を飛んでいた
そして気づけばバーミントさんは魔人の奥に佇んでいた
事は一瞬で片付いた
魔人に話す暇すら与えず、バーミントさんは首を取った
人形のような魔人の頭も体も地面に伏していた
バーミントさんはこちらへ駆けてきた
そして私の横まで来ると、戦いの終わりを告げる叫びを上げた
「みな!、、っ!」
しかし、それはできなかった
「ヒト、ノ、ハナシ、ハ、サイゴマデ、キカナイト、イケナイ」
地に伏していた魔人は立ち上がっていた
バーミントさんはもう一度魔人へと向き直り、剣を構える
「ソウ、オシエテ、モラッテイル、ダロ、マァ、ワタシハ、ヒトデハ、ナイガ」
そう言った魔物は最初と変わらぬまま体と頭は元通りとなっていた
「どんな魔術を使った!?オリーブ!見ていたか?」
バーミントさんは少し驚きつつも魔人から目も剣先も離さず、私に問いかける
「いや、見ていませんでした。すみません」
私は戦いが終わったと思い、気にしていなかった
「謝る前に構えろ!気を抜くなよ」
そう言われて、私も剣を構える
私とバーミントさんとでもう8度以上は首を切った
それでもこの魔人は起き上がり、頭と体はお互いに引き合ってくっつく
その不気味な光景を何度も見ていると吐き気がしてくる
そして、2人とも想像以上の長期戦に疲弊していた
人形のような魔人は奇妙な動きで近寄ってきては首を絞めようとしてくる
物理法則なんて無視したような動きは私たちを混乱させた
「なにか打開策を考えなければ」
首を絞められてはもう片方がその腕を切り落としてを繰り返していた
その時だった
「オリーブ!後ろ!」
私は後ろを振り向く
そこには今目の前にいたはずの人形の魔人がいた
私は首を絞められる
あまりにも速い移動速度とまだ慣れないその不気味な容姿を目の前にして驚きながらも、私はもがく
バーミントさんはこの人形の腕をなかなか切ってくれない
そしてもがきながらもバーミントさんの方を向くと、私は身の毛がよだつ
バーミントさんは何十体もの人形に囲まれていた
それに剣を振って、バーミントさんは交戦していた
それで手一杯で私の手助けができない様子だ
私はもがき続ける
強い力に振りほどくことができない、そして長期戦による疲弊でこちらは力が入らない
私はだんだんと意識が遠のいていく
『そうか、長期戦で疲弊させてから多勢で攻める。そういう作戦だったんだ。だからあえて何度も切られることに躊躇いがなかった』
今気づいたところでもう手遅れである
私の意識はもう途絶えていた
『またここかぁ』
私は少しの浮遊感を感じながらもうずくまる
いつも見る夢
真っ暗で何もない場所に私は一人でいる
ここでは声を出すことができない
『私、死んだのかな』
そんなときでも私が考えることはいつも同じ
『バーミントさんは大丈夫だろうか』
そう考え込んでいると、前から輝きを放った何かがこちらへと向かってくる
眩しくて目が霞む
「君はまだここに来るべきではない」
その光はそう告げる
『でも、私にはもうどうしようもない。あの魔人の倒し方なんてわからない』
声は出ないがそう心の中で言う
「それは関係ない。君は本当にこのままでいいと思っているのかい」
『だって、どうしようも、、、』
私はそこでやっと気づいた
自分の命なんかよりも、バーミントさんのことが心配なのだ
私の憧れのバーミントさん
憧れ、それはすなわち『好き』ということだ
そんな最愛のバーミントさんを死なせたくない
そう思った瞬間、光輝くそれが鮮明に見えた
それは魚だった
そして、それに気づいたと同時に周りにたくさんの淡い光がいくつも現れる
それはまるで、月
そこにはクラゲが無数に浮遊していた
その光景は夜空の星のようにきれいだった
「ここは海の底?」
私は声を出せた
「もう大丈夫だね」
光輝く魚はそう言った
私の体は浮かび上がる
それはまるでクラゲのように浮かび上がる
そしてそのまま勢いよく上昇していく
私は水面から飛び出した
「オリーブ!」
私は名前を呼ばれて目覚めた
「なに?これ、どういうこと」
私は困惑した
私の体は空へと浮かび上がっている
下には魔物たちと戦う仲間たちや人形たちと戦うバーミントさんが小さく見える
その光景が見えて、今の状況の危険さにやっと気づく
「落ちる?!」
私はこの高さから落ちたら死ぬと思った
「えっ、なにこれ」
私の足は空で止まる
まるで空を地として立っているように足元にだけ安心感がある
そして、一歩を出す
私は空を歩いている
「これは、華?」
こんな異常現象はそう捉えるしかなかった
そして私は空を歩きながら違和感に気づいた
バーミントさんが戦う人形たちには糸が伸びていた
その糸は真っ黒に染まる空へと繋がっていた
それを客観的に見た時に感じた
下で動くマリオネットと真っ黒な空は操演者である
「これが本体か」
私は剣を構える
そしてまるで自分のものにしたように、空を駆ける
私は黒い空を真っ二つに斬った
黒い空を斬ると、そこには眩しい太陽、そして永遠に広がる青い空があった
下を見れば、バーミントさんを取り囲んでいた人形はすべて消えていた
「オリーブ!大丈夫か?!何があった!」
下からバーミントさんが呼びかけてくれた
私にもまだ理解しきれなかった
それでも青くなった空をさらに歩いてみる
私は気持ちが高揚していた
空を歩くことが楽しかった
そしてバーミントさんへと報告する
「私!自由になったみたいです!」
君に会いたくて
「先生。相談したいことがあります」
私が職員室から出ると、そこには私が受け持つクラスの生徒、途廻(とまわり)くんがいた
「じゃあ、歩きながら話そうか」
私と途廻くんは2人並んで、放課後の廊下を歩く
2人の足音だけが響く廊下には窓から真っ赤な夕日が照らされている
そこで途廻くんは話してくれる
「僕って変ですか」
途廻くんの声は足音へと消え入るようだった
「ん〜、どうだろうね。なんでそう思ったの」
深く詮索するのは躊躇うかもしれなかったが、私からしたら根本の部分を少しでも知っていないとこの相談をどうこうできないと思い聞いた
「はい、、」
途廻くんは立ち止まり、窓から校庭を眺める
私も隣に立ち止まり、校庭を眺める
そこにはいろんな部活動の生徒たちがたくさんいた
そして途廻くんは口を開く
「みんなが好きなものを僕は好きになれないんです。
みんなは同じ話題で盛り上がっていて、僕はそこに入れない。
好きなフリをしてみんなの中に入ることはできるんだろうけど、そのみんなの中に入りたいとはあまり思えなくて、
それで結局みんなから逸れた外に僕は一人でいる」
「途廻くんは、変わってるかもね」
私はできるだけ愛想よく言った
「えっ、やっぱりそうですか、」
「でもそれは、途廻くんが思っている変わってるとは違うかな。もちろんいい意味でだからね」
「いい意味で?」
「そう。私が思うに、人の性格は環境によって変わる。
どんな場所で育ったか、どんな人と関わってきたか、どんな選択をしてきたか、そういう後天的なものが人の性格を形作ると思う。
だから、人の数だけ性格もある。この世に全く同じ人なんて存在しないんだよ。
他の人と違っているのなんて当たり前」
「はい、」
途廻くんの頭の上には疑問符が浮かんでいる
私は少し逸れた話になってしまったと、その疑問符のレバーを動かし、元のレールへと戻す
「途廻くんは『みんな』って言葉を多用してたよね。
よく『みんな』って主語を大きくして語る人は自分を大きく見せるためとか、逆に悲劇の主人公になるために使うことが多いけど、
さっきの途廻くんの『みんな』の使い方やその口調はそんな風には聞こえなかったかな。」
「はい、」
「みんながいて、僕がいて、そしてそれを途廻くんは客観的に見ている。
それってなかなかできないことだよ。
だから途廻くんは変わってると、私は思ったかな。」
「ありがとうございます。そう言われると、変でもいいかもって思えそうです」
途廻くんは最初に比べてだいぶ柔らかい表情になっていると感じた
「ちなみにさ、途廻くんが好きなものってなに」
私は途廻くんを校門まで見送ろうと、一緒に廊下を歩いて向かっていた
そこで私は聞いてみた
「奏多尊(かなたたける)さんっていうピアニストです」
「あぁ、懐かしい。天才少年ピアニストだよね」
一昔前に話題になった人だと私は思い出した
「そうです、今は元天才少年ピアニストって揶揄されていますけど。
僕は未だに好きで、最近だと『君に会いたくて』って曲が良くて。
でもだいぶ前に話題になった人だから誰も知らなくて、」
「大丈夫、私は知ってたから。」