今日だけ許して
悪口罪
それは、おもに人のような知能を持った人に対しての悪口を言えば罰せられる、というものだ
ちなみに罰とは、死
「おはようございます」
僕は自分のデスクへと向かう
カバンを机の下に置き、椅子に座る
そしてパソコンを起動
右下を見ると時刻はまだ8時45分
僕は朝礼までの15分の間にネットニュースを漁る
今日もたくさん死んでいる
みんな悪口を言ったからだ
以前から匿名SNSでの裏垢にて他の芸能人の悪口を書き込んでいると噂されていた俳優
記者からの挑発に乗って悪口をつい口にしてしまった政治家
そして、僕の彼女である一ノ瀬寧々のことは書いていなかった
『悪口絶対ダメ!悪口絶対ダメ!このAIジャスティスくんがいれば、日本中の電波を制御して、各地に備えられている監視録音カメラから悪口を言っている人を感知!、そして即警察へ伝わり、駆けつけて、屠殺ボックスカーにて即排除!、このAIジャスティスくんがいれば、日本は平和な国となるのです!
さぁみんな一緒に、悪口絶対ダメ!!』
今日も朝礼では国が出す啓発動画が流される
「さぁみんな、せーのっ」
「「「悪口絶対ダメ!」」」
上司の掛け声をきっかけにみんな合言葉を口にする
「ん?相模健くん?今、合言葉言った?」
上司は不敵な笑みを浮かべながら僕に問いかける
「えっ、あっはい、、言いました」
僕は言い詰められ、嘘をついた
「なら、よかった、今日も平和だ」
上司の言う平和が僕には理解できなくなっていた
みんな何事もなかったように自分のデスクに戻り、仕事を始める
僕だけが立ち尽くしたままだ
「相模健くん、何をやっているんだい?、仕事は?」
「、、、」
「どうしたんだい、」
上司は無言で立ち尽くす僕に問いかける
気持ち悪い
僕は口を開いた
「あの、気持ち悪いです、」
「えーとっ、それは、、私に対する悪口、と捉えていいかな?」
「、、、はい、お前は、、ブタ、ハゲ、チビ、くさい、気持ち悪いんだよ」
僕は静かに言った
でも自分が言ったことに実感が持てた
この空間で鳴り響いていたキーボードのカタカタ音がピタリと止まった
そして、僕は最後に大きい声で言ってやった
「お前のその喋り方が1番気持ち悪いんだよ!!」
確実にみんなが作業の手を止めて、僕を見つめている
そして上司はニコリとしていた
その直後
『悪口感知!悪口感知!悪口感知!悪口感知!』
上司のデスクの後ろに備え付けられていた監視録音カメラが反応、警報音と共にそんな警告音が流れ続けている
僕はすぐさま自分のデスクのパソコンのキーボードを叩いた
みんなが僕の一挙手一投足に注目している
僕は、この瞬間を待っていた
「あ、あ、マイクテスト、マイクテスト、みんな!聞こえてるかな!?今から僕は悪口を言う!」
この空間に備え付けられている監視録音カメラが反応すれば動き出す、とあるプログラムを用意していた
僕はAIジャスティスくんの日本中の電波を制御する機能を逆に利用した
僕は自分のデスクのパソコンから強制全国配信を始めた
「僕の愛する人は殺された!、この世の中に!」
僕は日本中に届くように声を張る
「僕の愛する人はすごく親友想いの人だった!、だから!親友が口を滑らせて言ってしまった悪口を庇って!」
僕は言葉に詰まった
涙が出ようと構いはしない
「僕の愛する人は殺されたぁ!親友を守ってぇ!殺されたぁ!」
僕の感情は止まらない
「そして、その親友はそれから恐怖で声が出なくなったぁ!」
僕は涙を散らしながら周りを見る
みんな僕に注目し、そして驚いた顔をしている
おそらく日本中の人たちも今同じ顔をしているだろう
場所が違うだけ
お茶の間のテレビ、定食屋のテレビ、様々な競技場の電光掲示板、街中のアナウンス、そして人間みんなが手にしているスマホ
それらからみんなが注目している、今の僕の言葉に
そしてみんなの心に響いていることを願って続ける
「日本中のみんな!よく耳をかっぽじって聞いてろぉ!その愛する人の名は、一ノ瀬寧々だ!!」
言った、僕はこの世の誰もが知らない臆病な英雄の名を叫んだ
僕にとってはそこら辺の俳優や政治家なんかより大切な人の名だ
「寧々が正しくて、この世の中が間違っている!、そう!この世の中は間違っている!矛盾しているんだぁ!」
そして僕はこの言葉で締めくくる
「悪口罪とは、それは、おもに『人のような知能を持った人』に対しての悪口を言えば罰せられる、というものだ、わかるかぁ?!今僕はこの世の中、悪口罪という概念に悪口を言ったぁ!、だから!僕はこの事では罪に問われない、これが矛盾のある間違った世の中の証明だぁ!!」
10/5/2025, 10:00:47 AM