ななしさん

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10/2/2025, 1:04:21 PM

遠い足音

"サクッサクッ"
雲一つない綺麗な青空
朝の澄んだ空気
そして、私たちは湖が綺麗に見える丘に来ていた
私の前を歩くのは憧れのヒーロー
今は私の直属の先輩にして、最強の戦士
アンガス•バーミントさん
この世で最も強い女性だ
「バーミントさん、ありがとうございます」
「あぁ、非番なのに呼び出してすまないな」
「いえいえ、」
ちょっとしたハイキングで息を切らしていたが、嬉しかった
あのバーミントさんが休日という大切な時間にわざわざ私と過ごしてくれているのだ
バーミントさんの私服は初めて見る
飾ったような格好ではなく、この湖の畔に溶け込むほどの美しい水色を基調とした格好
戦場とは違い、意外とかわいいかも
「先日のバンクーデン防衛作戦では、大きな活躍をしてくれたようだな、ありがとう」
「そんなっ、バーミントさんが魔人の首をとってくれたおかげです、私はただの時間稼ぎを、」
「それがありがたいと言っているのだ、君のおかげで多くの犠牲を出さなくてすんだんだ」
「全然、、、ありがとうございます」
照れくさく、霧のかかった湖に目を向ける
少し肌寒いが、そこには綺麗な湖があった
「ここの湖があるのも、この防衛戦を乗り越えたおかげだ」
「そうですね」
バーミントさんの横顔は凛としていて美しかった
「君は、何がために軍に入った?」
「私は、、、」
自分の不純な理由に言葉が詰まってしまった
バーミントさんに憧れて、わざわざ死地に足を運んでいるなんて言えない
「私は、守るために軍に入った」
バーミントさんは先導して話してくれた
いつもそうだ
「まもる、、国民の皆をですか、」
「ん〜、そうだな、、いや、実のところを言うとそうじゃないんだ」
「えっじゃあ何を守ってるんですか」
知りたかった、私の前を歩く憧れのヒーローのさらに先にあるもの
「私はこの湖や美しい場所を守るために戦っている、、、そうだな、あれを守るために戦っている」
バーミントさんは丘の下、湖のさらに先を指さしていた
「あっ」
私は思わず声が出た
そこには先程まであった霧が引いて、朝日に照らされた素晴らしく美しいものがあった
「あの美しい街だ」
やはりすごい、この人は私なんかよりもずっと前を歩いている

10/2/2025, 7:54:27 AM

秋の訪れ

「今年の秋はいつ来るかな?」
「わかった!じゃあそれについて一緒にマインドしよう」
「はいはい、いつものね」
「まず普段どうなったら秋だなと感じますか?」
「それは、、ご飯がおいしくなったら?」
「じゃあそう仮定して。」
「待った待った!うそうそ、、そうだなやっぱり気温じゃない」
「具体的には?」
「暑くなくなってきたなぁ〜とか」
「ん〜もっと具体的に、温度は?」
「え~とっ、20前半じゃない?」
「じゃあそれが正解だね」
「あー確かに、気温が20前半になったら秋が訪れたってことかぁ」
「ここで僕の個人的な意見を言うね」
「うんうん」
「秋、なくない?」
「たしかに、、、」
「急に暑くなったり急に寒くなったりで、ちょうどいい気温になることがないから、結論は」
「、、、」
「秋はもう死んでいる」

10/1/2025, 9:23:23 AM

旅は続く

人はよく人生を旅に例える
僕もその考えは好きだ

「もういっそのこと、飛び降りて死んでやろうか」
夕日が直接差し込む放課後の屋上
僕は柵の内側から校門に目を向けていた
失恋
それはこの世で最も残酷なものなのだ
校門の前に見知らぬ男性がいたので興味本位でそれを眺めていた
そうしたら校門の内側からやってきた僕と同じクラスの永井美那が笑顔で手を振りながらその男性と仲良さそうに会話を始めた
僕はしばらくの間、空を眺めた
白い雲の縁が赤く囲われていた
皮肉にも綺麗な空だった
僕のその行動は無駄だったようだ
目尻から涙がこぼれ落ちた
人生に悩みはつきものだ

次の日、僕は朝から寝不足で疲れていた
学校に行くのがこわかった
もう今までどおりに美那と会話はできない
最近はやっと仲良く会話ができるようになったと思ったのに
あんな光景を見たらもう同じ教室に入るのがこわかった
話しかけられるのがこわい
何を話していいかわからなくなる
「もうすべてが消えてなくなればいいのに、あの男も、美那も、人間みんな」
布団の中でうずくまる
「僕って、最低な人間だな」
もう何もしたくない
こんな残酷なこと本当にあってもいいのか
そう強く思う
それでもこの世界はなお残酷だ
世界は何事もなかったように動き続ける
「秋人!早くご飯食べ〜!!」
母親の大きい声が僕の部屋まで響き渡る

僕は残酷な世界に逆らうことができず、教室に入った
「おーきたきた!秋人ぉ今日は遅かったね」
やはりこの世界は残酷だ
よりにもよって教室に入って開口一番、美那の声が僕に降りかかった
もちろん美那はいつも通り
それがより残酷だ
僕はどう会話をしていいかわからず、素っ気なく会釈だけして自分の席に向かった
背中から美那の「秋人ぉ〜?」という声が聞こえてきた
その直後、先生が教室に入ってきて朝礼が始まった

「ねぇ秋人ぉ〜、どうしたの?今日元気ないけど、」
1時間目が終わった休み時間すぐに美那は僕の席の前まで来た
「別に、いつも通りだけど」
また素っ気なくしてしまった
こんなことよくないとわかっているのに、こうなってしまう
「そう、今日さぁ放課後にちょっと話あるんだけどいい、屋上来れる?」
「、、、」
「ホントに元気ないよ!大丈夫?、、、なんかあるんだったら言ってね、私、秋人のためだったらなんでもするよ!」

それ以降の授業は全く頭に入らなかった
美那は僕に何を話すのか
いや、考えなくてもわかる
どうせ「彼氏いるから私に関わらないで」とか言うのだろう
やっぱり全て消えてしまえばいいのに

僕は残酷な世界に抗えず、放課後になると屋上へ向かった
美那は待っていた
「おっきたきた、すごいよ!みてみて、真っ赤な海!」
僕は美那が指差す方を見た
確かに、屋上から見える海は夕日で真っ赤に染まっていた
「話ってそれだけ?」
僕は本当に最低だ、また素っ気なくなってる
もう今までどう接していたかさえも分からなくなっているのだ
「あ~、あのね秋人、私今まで秋人にはいっぱい助けられてきてさ、感謝してるの」
「、、、」
「だからその、、私、、、秋人のことが好きです!付き合ってください」
「えっ、、、」
まったく想像していなかったことだった
「ダメかな、、」
美那は僕の様子を伺うように言っている
「でも、昨日、一緒に帰ってた男の人は?」
「えっ、え~とっあれは、お兄ちゃん、えっみてたの!?」
この世界は最高だ

週末の土曜日の夜、僕は明日の美那との初デートがうまくいくかと悩みに悩んでいた
どんな格好で行くべき?どんな会話をしたらいい?
人生に悩みはつきものだ
先の見えない悩みと思い込んでいた失恋という旅が終わったと思ったら、また新たな悩みの旅が始まった

9/30/2025, 7:00:35 AM

モノクロ

"カランコロン"
「いらっしゃいませぇ〜、中山さん、いつものですかぁ〜?!」
「うん、頼むよ」
「店長!いつものコーヒー頼みまーす!」
「はいはい」
私は常連の中山さんにいつもの接客をする
中山さんは身なりがきれいで、優しい声をしている
いつもコーヒーを飲みながら読書をしに来る
中山さんは良い人だ
私はそう見えている
だからそれ相応の対応をする

「赤莉ちゃん、今日もかわいいねぇ」
カウンターの端の方から常連の原田さんの耳障りな声が聞こえてくる
「ありがとうございます」
私はそれだけ言ってすぐに原田さんとは反対のカウンターの端の席に腰掛ける
そして中山さんのコーヒーが出来上がるのを待つ
原田さんはいつも昼すぎに来て、カレーを頼み、それを汚く食べる
見てるだけで気持ち悪いし、いつも私に気持ち悪いことを言ってくる
原田さんは悪い人だ
私はそう見えている
だからそれ相応の対応をする

「中山さん、コーヒーっておいしいですか?」
私はカウンター席に座って頬杖をつきながら、ポツリとそんなことをつぶやく
「そうだね、おいしいよ」
窓際の二人掛けのテーブル席、中山さんはそこから優しい声で言った
「苦くないですかぁ?」
私は続けて質問する
「そうだね、確かに苦い」
少し微笑みながら中山さんは言う
「ほらぁ〜、おいしくないじゃん」
「僕はコーヒーを飲むとき、雰囲気で楽しんでるだ」
店内の雰囲気のある間接照明に照らされている中山さんの顔は優しかった
中山さんがそう言うなら間違えはないのだろうが、私にはわからない
喫茶店の店員をしているのにも関わらず、私はコーヒーが苦手だった
カウンターの中でコーヒーを作っている店長の手元を眺める
無駄のない動きで、もう間もなくコーヒーが出来上がる
見てて気持ちがいい

「赤莉、コーヒーを中山さんに」
店長は私が座っているカウンター席の目の前に出来上がったコーヒーを置き、そう言った
「は~い、、、どうぞぉ~、中山さん」
私はそのコーヒーを中山さんのテーブルまで持っていった
「ありがと、赤莉ちゃん」
「いえいえ!ゆっくりしてってくださぁ〜い」
変な気分

私にはこの世界がモノクロに見えている
そうやって世界を見た方が単純で、楽に生きられる
複雑に物事を考えないことは楽なのだ
例えば、コーヒーは黒、店長の無駄のない動きは白
常連の原田さんは黒、常連の中山さんは白
そうやって何でも白黒区別して見た方が、無駄なことを考えずにすんで楽だ
黒に対しては適当に、白に対しては大切に
周りの人からどう言われようと知ったことではない
それが私、七瀬赤莉の見ている世界

9/29/2025, 7:09:59 AM

永遠なんて、ないけれど

永遠に続くことはない
人は忘れる生き物だ

学校の先生、ノート、焦げた焼きそば、ペット、親、友達、いつもの通学路、いつも電車が一緒になるあの子、行きつけの喫茶店、いっぱい勉強をした机、椅子、ベッド、本棚、本、靴

自分が覚えているものなんて、意外と少ない
けれど、それら全部記憶の中では永遠に生き続ける

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