ななしさん

Open App
9/27/2025, 11:46:43 AM

涙の理由

「遅れてごめん、美凪のことが僕も好きです」
美凪は驚きの顔をこちらに向けていた
僕の急な告白に驚いたのだろう
沈黙を恐れた僕は言葉を続けた
「あのときは、なんて返し、、、えっ」
白いカーテンの隙間から差し込んだ赤い夕日
その夕日のスポットライトを浴びて、涙が赤く光った
彼女は病室のベッドで涙を流していた
僕には、その涙の理由がわからなかった
そして、僕は告白をするべきではなかったと後悔した

真っ赤な夕日に染まる街を見るたびに思い出しては、あの涙の理由を考えている
しかし何度考えても答えはわからない
そして、答え合わせもできない
彼女はあの涙の日を最後に旅立ってしまった
僕が最後に見た彼女は涙を流していた
あれが最初で最後の美凪の涙だった
美凪が涙を流すなんて信じられなかった
そういった感情表現をしないのが美凪なのだ
だから涙の理由が分からなくなっていた
こんな予測は思い上がりすぎと考えながらも、素直に好きと言われたことが嬉しかったからなのだ
でも長年美凪の側にいた僕からしたら合点がいかなかった
美凪がそういうときに涙を流すと思えない
自分の死期が近づいて、涙もろくなっていたと片付けてしまえばおしまいなのだが
どうしても引っ掛かって、考えてしまう
涙の理由を

僕は夕日に染まる街の中を歩き、自宅に帰ってきた
右手には手紙があった
美凪の母からもらった、美凪の遺書的な手紙だ
僕は自室のベッドに腰掛け、手紙を開いて読んだ

『優斗へ
今日はありがと、花火すごくきれいだった
私は今、どうしても伝えたいことがあって、病室に帰ってきてこの手紙を書いています

まずは一緒に花火を見に行こうと、連れて行ってくれてありがと
人の多さと、花火の大きな振動音は病人の私の胸に少し毒だったかもしれないけど
でも花火はすごくきれいで
なにより、優斗と一緒に見れたことがすごく幸せだった
あの花火を私は一生忘れることはないと思う
まぁその一生はもうわずかだけど
でも死ぬその瞬間まであの時の幸せは残り続ける
本当にもう後悔はない、そうはっきり思えた

でも一つだけ後悔があるとしたら
私ね、優斗のことが好きです
この言葉を一緒に花火を見ているときに私は言ったの
花火の音で聞こえなかったよね
優斗が「えっ」って聞き返してきて、私にはこの言葉を2回も言う勇気がなかった
私のこの思いが伝えられなかったことが、私のたった一つの後悔
声に出しても、伝わらなかったら意味がないよね
だからせめて、こういう形で伝えようと思って、今この手紙を書いています
美凪より』

「あぁぁぁぁ〜」
僕は美凪と同様に柄にもなく涙を流した
いや、美凪のきれいな涙よりよっぽどひどい涙だ
「だから、そう、だったんだ」
ずっとわからなかった答えがわかった
あのときの涙は僕が、「美凪のことが『僕も』好きです」と言ったときに自分の思いが伝わっていたことに気づいた
そして美凪は驚き、涙を流していたのだ
それが嬉しかったのだ
合点がいった
そして僕は心から思った
あのとき、告白をしてよかったと
「美凪、ちゃんと、聞こえてたよ」

9/26/2025, 8:19:32 AM

パラレルワールド

拝啓

こちらはセミの声は聞こえなくなりましたが、まだ暑さだけが残り続けています。
そちらはどうでしょうか、どんな季節ですか。

僕は今失業中です。
人間関係の難しさをこの歳で初めて知って、苦しんでいます。
なぜ仕事をしないといけないのかとも悩んでいます。
結局お金がないと人は生きてはいけないのだと理解して、しょうがなく仕事を探しています。
いずれはたくさんお金を稼いで何不自由なく生きていきたいと考えています。
仕事はただお金を稼いで、楽しく生きるためにしょうがなくするものと割り切ります。
でもたまにそんな割り切りを忘れてしまい、また苦しんで悩むんだと思います。
そんなときはまた手紙を送ります。
あなたはちゃんと人間関係に苦しまずに働けていますか。
まぁあなただけが人間関係に苦しんでないなんてことはないですよね。

覚えていますか、あの頃のこと。
まだ無知だった小学生の時、僕は毎日のように外に出て知らない子と遊んでいましたね。
今からしたら考えられないですね。
僕はサッカーボールを抱えて、グランドで遊んでいる子供達の前に行き、「一緒にサッカーしよ!」と言っていましたね。
僕は雨で屋外で遊べないことを嘆いて、悲しい顔をしている子たちに「今からおもしろいことするから!」と言って一人お笑いライブを始めていましたね。
あなたも一緒に笑顔になっていましたね。

僕は今一人旅をしています。
自分探しという感じでしょうか。
この暑さの中では心地のいい風が吹いて、そして揺れる彼岸花は綺麗でした。
今しか見ることができないということで真っ赤な彼岸花畑に行きました。
彼岸花の花言葉には「独立」、「あきらめ」があるそうです。
今の自分にピッタリですね。
そして「情熱」というのもあるようです。
僕が情熱を注げるものを見つかれば、そのために人間関係や仕事を割り切れるでしょうか。
僕が情熱を注げるものは何でしょうか。
教えてください。
そろそろ自分探しの旅を終わらせたいです。
この手紙を届けたいのですが、今あなたはどこにいるのでしょうか。
とりあえず一切曇りのない水平線にこの手紙を流します。
もう一人の僕へ届け

もう一人の僕より

8/25/2025, 6:25:56 AM

見知らぬ街

「早めに友達は作っておいたほうがいいですよ」
先生はそう薄笑いで言っている
「毎年、1人になって困ってる子をよく見るので」
先生は危惧していたらしい
大学という場において、そしてクラス制のこの大学では、仲間がいないと落ちていくシステムになっていることを心配してくれての言葉だった
先生はその言葉を違和感を感じながら言っているように僕には見えたし、聞こえた
だからなのかもしれないが、その言葉を僕は不思議と胸に留めていた
そして心でがんばろうと決心した

オリエンテーション、入学式を通してすでにもう友達を作っていたり、すでにSNSなどで知り合ったりしていたのだろうかみんな友達ができている中、友達がまだできていなかった僕は授業初日の前日の夜がんばってメモをしていた
最初は天候の話をしようかなど、僕の好きなアニメの話をしようかなど、スマホのメモ機能を使ってたくさんの会話チャートを作った
そしてそれを何度も頭でイメージトレーニングして眠りについた

大学生活1日目
朝の通学の電車は、説明会、試験、オリエンテーション、入学式などでもう何度も通ってることで慣れたものだった
スマホで調べなくても乗り換えのタイミングを熟知していた
だから僕は昨日の晩に作った会話チャートを頭の中で何度もイメージトレーニングしていた
そして最寄り駅に着いて、電車から降りる
同じ大学に向かうたくさんの学生の波の中を逆らわずに歩いた
今日は2時間目と昼休憩を挟んで3時間目の2時間だけだった
それだけあれば充分友達はできるから大丈夫
絶対に友達を作ると決心しながら僕は他の学生たちと大学までの道のりを一緒になって、そして教室に入った
最初の授業は数学の起源についての授業内容
教授がまだ来ていない教室に入り、誰も座っていなかった席に座った
そして隣に座った人に絶対話しかけようと考えて、スマホをいじっているフリをして待った
僕は運が良かった
「ここ座っていい?」
そう声をかけながら隣に座ってくれた人がいた
「はい!大丈夫です」
愛嬌のいい返事ができただろうかと不安に思いながらもそう声を出せた
しかし、イメージトレーニング通りにはなかなかいかず、その後第一声を放つのをためらって、沈黙の時間が続く
僕は「どこの高校?」という質問から始めようと思った
そしてそれを言葉にしていいかを頭の中で何度も反芻した
「あっちに友達いたから、ごめん」
そう言って隣に座ってくれた学生はすぐにどこかに行ってしまった
僕は判断が遅かったようだ
その後違う学生が黙って隣に座ったが、僕は怖くなってこの時間は友達作りを一旦諦めることにした

昼ご飯を次の授業を受ける教室で食べようと思った
しかしそれは叶わず、次のプログラミングの授業で使うPC室はまだ開放されていなかった
食堂に行くことは考えなかった
人が大勢いる場所は怖い、それに同じクラスの子から「あの子また一人でご飯食べてる」と言われるのが怖かった
今でも覚えている、オリエンテーションのとき教室でボッチ飯をしている僕の横で女子のグループが「あの子いつも1人でいる」と噂しているのが聞こえてしまった
僕のことを言っているのかは分からないが、少なくともその近くに僕以外にボッチ飯をしている学生はいなかった
その時の恐怖が蘇り、僕は行く場所を失い、人気の少ないトイレの個室に入った
便所飯だけは避けたいという無駄な抗いで、ご飯は食べずに1時間近くその個室で過ごした

気持ちを切り替えて、トイレの個室から僕は出てPC室へと入った
恐怖を払拭する時間がかかったのと、早く行き過ぎて教室の前で待つ学生たちと出くわすのが怖くて、授業開始直前にPC室に入った
すでにたくさんの生徒がいた
どこに座っていいかわからず、自然と集団とは少し離れた後ろの席に座った
声を掛けるには難しい位置だった
だから今日は諦めて明日からがんばろうと思った
明日も明後日も大学生活は続くから大丈夫
そして授業が始まって先生が「みんな前の方の席につめてほしい」と言ったので僕も含めて、後ろの方にいた学生たちが前方につめた
これはチャンスだった、話しかけられる射程圏内へと自然に近づけた

授業がなかなか難しい内容でパソコンとにらめっこをしていた僕は授業後半、我に返って友達を作ることを実行しようと思った
僕は「これってどうやるの?」と分からないふりをして向かいのパソコンの学生に声をかけようとした
ちなみに隣は女性だったので、それはあまりにハードルが高いのと、声をかけたところで友達まで発展しないと思った
あとはボッチ飯のトラウマから女性への恐怖心があったので話しかけにくかった
よしっ!僕は向かいの男子学生に声をかけようとした
「これってどうやるの?」
しかし、反応がない
あれ?何かがおかしい、えっ、、、僕は恐怖で声が出なくなっていた

大学生活2日目
僕は昨日の恐怖を未だに抱えながら、いつもの慣れた電車の中にいた
そして最寄り駅に着いて、電車から降りる同じ大学に向かうたくさんの学生たちと違い、僕はホームのベンチに座り込んだ
僕は新たな大学生活のために買った新品のリュックを背負ったままベンチに座り俯いていた
その間に何度か駅に電車が止まっては学生たちの波が来てを繰り返していた
それを横目に見ながら気づけば、電車に乗っていた
僕は学生たちの波に逆らっていた
僕の大学生活は1日しかもたなかった
僕は見知らぬ街を何の目的もなく歩いた

8/9/2025, 10:08:41 AM

風を感じて

夏の暖かい風を頬に感じる
夜の河川敷は蒸し暑い、人も多い
私は出店で買ってきたかき氷を食べながら、1人夜空を眺める
"ヒュ~ドンッ"
花火が打ち上がった
目から涙が流れる
私は夏の花に亡霊を感じる

8/5/2025, 7:54:26 AM

「ただいま、夏が到来しました!」
ニュースのリポーターの人が言い放ったのを僕は冷房の効いた涼しい部屋で聞いていた

Next