旅は続く
人はよく人生を旅に例える
僕もその考えは好きだ
「もういっそのこと、飛び降りて死んでやろうか」
夕日が直接差し込む放課後の屋上
僕は柵の内側から校門に目を向けていた
失恋
それはこの世で最も残酷なものなのだ
校門の前に見知らぬ男性がいたので興味本位でそれを眺めていた
そうしたら校門の内側からやってきた僕と同じクラスの永井美那が笑顔で手を振りながらその男性と仲良さそうに会話を始めた
僕はしばらくの間、空を眺めた
白い雲の縁が赤く囲われていた
皮肉にも綺麗な空だった
僕のその行動は無駄だったようだ
目尻から涙がこぼれ落ちた
人生に悩みはつきものだ
次の日、僕は朝から寝不足で疲れていた
学校に行くのがこわかった
もう今までどおりに美那と会話はできない
最近はやっと仲良く会話ができるようになったと思ったのに
あんな光景を見たらもう同じ教室に入るのがこわかった
話しかけられるのがこわい
何を話していいかわからなくなる
「もうすべてが消えてなくなればいいのに、あの男も、美那も、人間みんな」
布団の中でうずくまる
「僕って、最低な人間だな」
もう何もしたくない
こんな残酷なこと本当にあってもいいのか
そう強く思う
それでもこの世界はなお残酷だ
世界は何事もなかったように動き続ける
「秋人!早くご飯食べ〜!!」
母親の大きい声が僕の部屋まで響き渡る
僕は残酷な世界に逆らうことができず、教室に入った
「おーきたきた!秋人ぉ今日は遅かったね」
やはりこの世界は残酷だ
よりにもよって教室に入って開口一番、美那の声が僕に降りかかった
もちろん美那はいつも通り
それがより残酷だ
僕はどう会話をしていいかわからず、素っ気なく会釈だけして自分の席に向かった
背中から美那の「秋人ぉ〜?」という声が聞こえてきた
その直後、先生が教室に入ってきて朝礼が始まった
「ねぇ秋人ぉ〜、どうしたの?今日元気ないけど、」
1時間目が終わった休み時間すぐに美那は僕の席の前まで来た
「別に、いつも通りだけど」
また素っ気なくしてしまった
こんなことよくないとわかっているのに、こうなってしまう
「そう、今日さぁ放課後にちょっと話あるんだけどいい、屋上来れる?」
「、、、」
「ホントに元気ないよ!大丈夫?、、、なんかあるんだったら言ってね、私、秋人のためだったらなんでもするよ!」
それ以降の授業は全く頭に入らなかった
美那は僕に何を話すのか
いや、考えなくてもわかる
どうせ「彼氏いるから私に関わらないで」とか言うのだろう
やっぱり全て消えてしまえばいいのに
僕は残酷な世界に抗えず、放課後になると屋上へ向かった
美那は待っていた
「おっきたきた、すごいよ!みてみて、真っ赤な海!」
僕は美那が指差す方を見た
確かに、屋上から見える海は夕日で真っ赤に染まっていた
「話ってそれだけ?」
僕は本当に最低だ、また素っ気なくなってる
もう今までどう接していたかさえも分からなくなっているのだ
「あ~、あのね秋人、私今まで秋人にはいっぱい助けられてきてさ、感謝してるの」
「、、、」
「だからその、、私、、、秋人のことが好きです!付き合ってください」
「えっ、、、」
まったく想像していなかったことだった
「ダメかな、、」
美那は僕の様子を伺うように言っている
「でも、昨日、一緒に帰ってた男の人は?」
「えっ、え~とっあれは、お兄ちゃん、えっみてたの!?」
この世界は最高だ
週末の土曜日の夜、僕は明日の美那との初デートがうまくいくかと悩みに悩んでいた
どんな格好で行くべき?どんな会話をしたらいい?
人生に悩みはつきものだ
先の見えない悩みと思い込んでいた失恋という旅が終わったと思ったら、また新たな悩みの旅が始まった
10/1/2025, 9:23:23 AM