モノクロ
"カランコロン"
「いらっしゃいませぇ〜、中山さん、いつものですかぁ〜?!」
「うん、頼むよ」
「店長!いつものコーヒー頼みまーす!」
「はいはい」
私は常連の中山さんにいつもの接客をする
中山さんは身なりがきれいで、優しい声をしている
いつもコーヒーを飲みながら読書をしに来る
中山さんは良い人だ
私はそう見えている
だからそれ相応の対応をする
「赤莉ちゃん、今日もかわいいねぇ」
カウンターの端の方から常連の原田さんの耳障りな声が聞こえてくる
「ありがとうございます」
私はそれだけ言ってすぐに原田さんとは反対のカウンターの端の席に腰掛ける
そして中山さんのコーヒーが出来上がるのを待つ
原田さんはいつも昼すぎに来て、カレーを頼み、それを汚く食べる
見てるだけで気持ち悪いし、いつも私に気持ち悪いことを言ってくる
原田さんは悪い人だ
私はそう見えている
だからそれ相応の対応をする
「中山さん、コーヒーっておいしいですか?」
私はカウンター席に座って頬杖をつきながら、ポツリとそんなことをつぶやく
「そうだね、おいしいよ」
窓際の二人掛けのテーブル席、中山さんはそこから優しい声で言った
「苦くないですかぁ?」
私は続けて質問する
「そうだね、確かに苦い」
少し微笑みながら中山さんは言う
「ほらぁ〜、おいしくないじゃん」
「僕はコーヒーを飲むとき、雰囲気で楽しんでるだ」
店内の雰囲気のある間接照明に照らされている中山さんの顔は優しかった
中山さんがそう言うなら間違えはないのだろうが、私にはわからない
喫茶店の店員をしているのにも関わらず、私はコーヒーが苦手だった
カウンターの中でコーヒーを作っている店長の手元を眺める
無駄のない動きで、もう間もなくコーヒーが出来上がる
見てて気持ちがいい
「赤莉、コーヒーを中山さんに」
店長は私が座っているカウンター席の目の前に出来上がったコーヒーを置き、そう言った
「は~い、、、どうぞぉ~、中山さん」
私はそのコーヒーを中山さんのテーブルまで持っていった
「ありがと、赤莉ちゃん」
「いえいえ!ゆっくりしてってくださぁ〜い」
変な気分
私にはこの世界がモノクロに見えている
そうやって世界を見た方が単純で、楽に生きられる
複雑に物事を考えないことは楽なのだ
例えば、コーヒーは黒、店長の無駄のない動きは白
常連の原田さんは黒、常連の中山さんは白
そうやって何でも白黒区別して見た方が、無駄なことを考えずにすんで楽だ
黒に対しては適当に、白に対しては大切に
周りの人からどう言われようと知ったことではない
それが私、七瀬赤莉の見ている世界
9/30/2025, 7:00:35 AM