"星空の下で"
眠れない夜だった。
オレンジ色の光を眺めて、自らの呼吸と心音だけを聞く
すぅと意識を手放すように瞼を閉じて一度、二度と息をした
昨日はどうやっていたっけ、と思い出そうにも同じことをやっていた覚えしかない
もぞもぞと身体と布団を動かして暑くなったり寒くなったりを繰り返す
そんなことをしていると、ベッド横のカーテンが目についた
開いている。
僅かだが、中央のカーテンが開いてレースカーテンがこちらを覗いている
ひやりと何だか恐ろしいものを感じて、閉めるために起き上がった
片手でカーテンの裾を引っ張ると、レーンがカラカラと音を立てる。
そのまま背中をベッドに押し付けると、私を支えたスプリングがギシと鳴いた。
もし、開けて空を眺めていたら
どうなっただろう
もしかしたら、満点の星空が私を癒してくれるかもしれない
もしかしたら、真っ暗な空におおきな月がいたかもしれない
もしかしたら、誰かがいたのかもしれない。
ぼんやりとした頭の中で、“もしかしたら”を考えているうちに、私はようやく意識を手放した。
"それでいい"
雨の日のバス停
やっと辿り着いた屋根の下で傘についた雨粒をはたき落とす
手を僅かに濡らしながらくるくると傘を畳んだ
雨もまだまだ止みそうにない
小さな屋根に水が溜まって、大きな滴となって落ちてくる
水溜りに叩きつけて、私の足を濡らした
ひんやりとしたそれは私から体温を奪う
不愉快な感覚に身を捩って、安全な場所を求めて少し移動する
灰色の濃淡を携えた空を見上げる
それでも私は、雨が好き。
"幸せに"
「全人類の人間が人生最大の失敗を今すぐ経験して人に優しくなればいいのに」
ついさっきまで談笑していた友人が明後日の方向を見ながらそう呟く、何事だ
先程までの態度とは打って変わってぼんやりとしている
いきなりどうしたのかと問うてみれば、最近失敗続きなのを思い出してしまったらしい
失敗を経験すればその痛みを知っているから人に優しくなれる
同じ痛みを知ること、それは人と人とを巡り合わせる最大の感情になり得る。
裏も表も存在しない。
共感して、同情して、慰めることができる。
埋めることを諦めたパズルのピースがカチリと噛み合うように。
それはそれとして取り敢えず目の前のこいつは休ませようと思った。
"何気ないふり"
深く考え込む私を訝しんで
そろりとあなたは覗き込んでくる
そんな姿に酷い嫌悪が私を襲う
視界に入るだけで胃の中身が迫り上がり、無意識のうちに顔に力が籠る
敵意しかない眼差しを向けるわけにもいかず顔を伏せた。
そんな私に、大丈夫か心配だだのと頭の上から言葉を浴びせてくる
表面上だけの感情を、一体いつまで繰り返すのか
鋭い何かでその胸に突き刺すのを夢に見て
話しかけてくるそれに、私は慣れたように愛想の良い笑顔を顔面に貼り付けて返事をした。
"見つめられると"
学校の最上階、角の教室で私を表す番号が呼ばれた
私は返事をした、なんでもないように平常心を保って。
そのまま足が震えていないか気にしながら教壇を目指す
タンッと私の心と真逆な軽やかな音を出しながら足をかける
一際高い机の上に端末を置いて、隅から隅まで確認してミスや誤字がないことを確かめたスライドを出す
前のスクリーンに接続を行うが、手が震えていてうまくできない
この学校に入ってから、人の前に立つということは何度も繰り返しているはずなのに
なんでこんなことになっているのか、何かトラウマがあるというわけでもない
けれど人の前に立った時、私を見定めるような
針のように私を突き刺す視線はまるで針山にでもなってしまったような気分にさせる
頭から血の気が引いて、つま先から感覚がなくなっていく
誰にも気付かれないように素早く深呼吸をする
私の全てが固まってしまう前に、用意していたカンペをただひたすらに読み上げて
想定しているスライドが表示されているかを度々確認する
最後まで読み切ることができたら、終了であることを告げて静聴してくれたことに感謝を述べる
淡々とした拍手の中をするする抜けて自分の席に座れば、安堵から体の力が抜けて、冷えた体に熱い血液が回るのを感じた