"1000年先も"
毎日君に花を贈っている。
昨日は太陽を見て育つ華やかな向日葵を
今日は七変化する妖艶な紫陽花を
明日は甘く強い芳香に愛される金木犀を贈ろうと思っている
返事などない。
けれどそうするのは、君の笑顔が見たいから
いつか作った花畑のような花冠、綺麗に出来たはいいが持て余して近くにあった君の頭に乗せた時
きょとんと猫のような顔をして、君が笑った瞬間に周りがぶわっと色付いて、愛しくなった。
花が綻ぶように笑った君の笑顔が心に張り付いて離れない。
ずっと、花を贈るよ
10年後も100年後も、1000年後だって。欠かさず
これ以上、独りで哀れになってしまっては敵わない。
こんなに花ばかり送ってしまっていては、もう嫌になっているかもしれない。
けれど、君との思い出をどうしても形にしたいから。
天国にいる君へ送ると誓い
届いていることを願っている。
"勿忘草(勿忘草)"
昔、一度だけ見たことがあった。
青い小花の合弁花
中央の黄色が合わさったのが綺麗で、見惚れていたのを覚えている。
それを思い出したのが、息を切らしながらこちらを見遣っている君の手に握りしめられたのを見たからだった。
様子からして、走って来たのだろう。
風圧やらなんやらで草臥れている花も相まって確信できる
私に渡す為に持って来たらしいが、差し出した瞬間にそんな様子に気づいたらしい。ハッとした後に恥ずかしそうに手を引っ込める
私は君を知らない
けれど、なんとなく受け取りたくなった
完全に手を引っ込められる前に私は腕を伸ばして、優しく花を受け取った。
強く、強く握られたそれは確かに疲れているようだけど
確実に、美しい物だった。
花を受け取った私を見て、はくはくと口を動かしている君を見る。
私にはもう何も聞こえない。
耳鳴りがして、君の声を拾うことを邪魔されている。
酷くもどかしい。何を伝えたいのか、どんな声をしているのか。今の私には理解することは叶わない。
一度顔を伏せた君は、それでもばっとこちらを見て笑う
百面相する君がとびきり愛おしく感じた。
今日もまた、勿忘草の花弁が降る
誰からかなんて、明白だった。
"ブランコ"
すっかり遅くなってしまった。
とっぷりと闇に沈んだ夜空は、眩い星と月を携えている。
矢継ぎ早に足を動かし、近所である住宅街を奔走する
ふと、ぽっかりと空いた覚えのない空き地が目に止まる。
滑り台に鉄棒、最近は撤去が進んでいると噂のくるくると回る、まあるい遊具まで揃っている。
随分と古いのだろう。
色褪せ、錆び付いている
その中で、一際目立つ遊具が公園の中央に置かれている
その様はまるで新品のようで、他の遊具と違い使い込まれた形跡がない。
こんな古びた公園に新しく遊具を設置するなどあるだろうか
気になって入口を探し、踏み入る。
さくさくと草を踏み締めて進む、街灯に照らされて怪しく光る植物たちは、私を歓迎はしていないらしい。
目的に辿り着くが、特に何をするわけでもない。
深く観察してみるが、特に変わった様子もない。
不可解なことといえば、微かに揺れていること。
2つあるうちの1つが、まるで今この瞬間に乗り捨てられた様子で小さく前後に振れている。
もちろん私は触れていない。こんな暗い時間にブランコに乗るおかしな人などいないだろう。私以外には
揺れていない方のブランコの鎖に手をかけて腰を下ろす。
公園は子供が遊ぶ場所、流石に小さくて脚を相当折り込まなければ座れなかった。
けれども、遊べない訳ではない。
昔の記憶を頼りに漕ぎ出してみる。懐かしい感覚で頭がくらくらするが案外楽しめている。
満足したら前に揺れているタイミングでジャンプして、そのまま振り返らずに帰宅した。
次の日、少し早い時間に同じ道を通ったがブランコだけが姿を消していた。
他の遊具は前日と同じく色褪せて、寂しげな様子でそこにいる
ブランコがあったはずの場所には何も無く、地面を見ても他と変わらず一晩のうちに無理矢理に撤去された様子もない。
ただ忽然と姿を消している。
全くもって不可解だ。寝ぼけていたのだろうか
まさか夜にしか出てこない怪異のような遊具だったのではなかろうか
確認するよりも、帰って休むことを優先している私はそれ以来あの遊具で遊べてはいない。
事実を知る事になるのは、また帰りが遅くなった時だろう。
"旅路の果てに"
至る所を練り歩いている。
桜色を見上げて、舞い落ちてくる花弁を捕まえてみたり🌸
青緑色の水平線を眺めて足を濡らしたり🐚
色とりどりに姿を変えた木々に触れてみたり🍁
白く輝く綺麗な夜景に惚れてみたり❄️
沢山のことをして
沢山の美味しいものを食べて
沢山のことを知り
文字通り、沢山の思い出を作った。
旅路の途中で買ったインスタントカメラ
大切に使おうと思ったのにすぐにフィルムが切れてしまうので悶々とした。結局沢山のフィルムを消費してしまった
旅の途中で拾った綺麗な葉っぱを使った栞なども、初めて作ったにしては良い出来だと思う。
旅に出た時よりも随分と増えた荷物を眺めては笑って
いつかは行くことになるであろうと確信していた場所へ向かう。
旅の間、ずっと懸想していた。
ひとりになるための旅だったはずなのに
結局のところ頭は忘れることなんてできず、意に反して想い焦がれることとなった。
重い、重すぎる
旅の途中で増え続けた荷物と自らの心が手に負えないことになっている事に気付いて笑いが止まらない。
周りの人が作業的に足を動かしているのに対し、たったひとり感情を表して喉の奥でくつくつと笑っている
ああなんて面白い。
緩み切った頬をなんとか抑えて歩を進めた。
"あなたに届けたい"
ずうっと、自覚していた。
あなたを見るたび、沸々と湧き出すこの感情に。
けれど、押さえ込んで蓋をしていた。
叶うはずのないものだったから。
けれども、感情を抑えているとどうにも恍惚として
あなたを見ていると、どうにも我慢が効かなくなるのに
あなたから目を逸らせない。
狂った愛情と狂おしい殺意、受け取ってくれるはずでしょ
こんな感情を教えた、あなたが悪いのよ。