"街へ"
冬の真っ只中、全財産と少しの荷物を小さな鞄に詰め込む。
ピッと機械音が右側で響いて、さっさと歩みを進める。
ぶわっと空気が吹き込んで、コートが翻る
何度この風を感じても慣れる気がしない。
扉の左側に立って、降りる人を待つ
田舎の始発列車
車内は人気がなく座る場所も、選び放題。
入ってすぐの席に腰掛けて、横の壁にもたれかかる
外はまだ暗い
アナウンスがあった後に空気が漏れ出すような音を立てながら壁の向こうの扉が閉まるのを感じる。
ほんの少しして、揺れ出す。
携帯を取り出して触る気にもなれず、ただ誰もいない向かい側の窓を眺めるしかなかった
ほんの少しの赤を携えた空はあんまり綺麗で、つい惚れてしまいそうになるから
ひとつ咳をして、意味もなく膝の上に置かれた鞄のチャックに手を伸ばす。
触って、握って、滑らせて
開けることもせずにただ子供のように手遊びをしている
まだまだ、到着にはかかりそうだ。
"優しさ"
人と触れ合っていると、優しいと言う言葉すら凶器だと思うことがある。
人に無意識ではもちろん、意識的に優しくできる人が羨ましいし、心から尊敬していると思ってる。
そんな人に笑いかけられて優しくされたら、感謝の言葉を告げて少しの間呆然とする
かっこいいと思って憧れたり
気が利かないやつと思われた気がして落ち込んだり
何にもなさそうな顔して頭の中では言葉が飛び交い続ける
考えすぎなんだとわかってはいるけれど、きっとそうしていた方が落ち着く。
そして、「優しいね」と言われた時が地獄である。
前は素直に受け取れていたはずの言葉が、鋭い凶器になり代わり私ごと突き刺して固定する。
身動きが取れなくなって、だんだん悲しく、切なくなってくる。
褒め言葉のはずのふわふわした優しい言葉が
こんなに苦しいものだったなんて。
ごめんなさいと謝りたくなって
ぎゅうっと頭の中を締め付ける。
肺が酷く震え出して、分不相応にも泣き出したくなるから
私は、優しさなど扱いきるに相応しくない。
"ミッドナイト"
君の想い人は私では無い。
よくわかる。
君をいつも見ているから
けれど君の想い人は、私のそれ以上に君のことを見ているし知っている。
君が恋をしていることを、私は知っている。
私と同じ目をしているから
それが、叶わぬものだということも
ならば私にすればいい。
想い人を映す君の瞳ごと、私が奪ってしまえれば
願った。願い、願い、祈った
終ぞ、叶わなかったが。
暗く暗い中、枕に顔を埋めて
カチカチと明日への秒を刻む時計の音を聞いていた。
"安心と不安"
便りが無いのは良い便りとはよく言うが、それは誰かを心配をする自身の心を窘める言葉に過ぎない。
この家の玄関の戸を押して出た君は、3ヶ月音信不通になっている。
落ち着いたら連絡すると言う言葉を信じて待っているものの、心を落ち着かせて待っていられる人がどこにいるだろう
心配するから便りを出せ。と言う言葉は好かない
好きなようにするのが一番幸せだから。と、おもっていたのだけど
そろそろこちらから連絡するべきかと言うところでひとつの便りが届いた。
届いたのはたった10文字すら満たさない一言
それだけだった。けれども、十分すぎる便りだった。
さて、こちらは向こうが嫌になる程長い便りを寄越してやろう。
"逆光"
暁
君は起きて私を叩き起こした
何度も鳴り響くスマホを叩き取り、画面いっぱいに表示されている君の名前を見る
私は二度寝した。
東雲
君は自転車に乗って来て私の家の玄関の扉を叩いた
朝支度を始めている私は呆れながら玄関に行って出迎えた
私はふざけ始めた君を締め出した。
昼下がり
車も少ししか通らない森に囲まれた歩道を歩いている
歩くだけの道に飽きたらしい君は次の信号まで競走しようと息巻いた
私は一歩目で転んだ。負けた。
黄昏
絆創膏を貼ってもらった膝を気にして歩く
楽しかった、なんて笑いながらいう君の声を静かに拾った
キラキラと笑う君の笑顔は今は見れなかった
私は背負っている光が明るすぎる君をずっと見ている。