"時を結ぶリボン"
姉が車に撥ねられた。
学校の帰り道、突然に制御が効かなくなった車が突っ込んで来た。
目の前での出来事だった。
私を突き飛ばして、姉の周りで弾ける赤を見た。
焦りながら降りてきた運転手を罵ることさえ出来ず、ただ地に伏せて茫然としているだけだった。
体制を崩して地に叩きつけられても
初めて姉に突き飛ばされた衝撃を前にして、思考を放棄するほかなかったからだ
姉がいつも髪につけていた赤いリボン
毎朝、丁寧に結って着飾っている姉を見ていた。
あんな切迫した状況で、私を守る勇気だとか判断ができる姉がこんなペラペラな存在になってしまったのだ。
姉は即死で、若くして亡くなったために周りはバタバタとしていた。
母も父も、もちろん私も突然のことすぎて
涙が出なかった。案外薄情な家族だったらしい。
そんな出来事から数年後。
あれから毎日赤いリボンを髪につけている私は、姉と同い年になって、初めて自覚した。
姉はもう居ないということを
点と点が線になり初めて、私の目から涙が溢れて止まらなかった。
屈託なく笑う姉が好きだった。
些細なことで泣いてしまう姉が可愛かった。
私のことで怒ってくれる姉を愛していた。
姉がいなくなった新鮮な悲しみを思い出すことのできる。赤いリボン、何て都合のいい存在か
溢れ出る感情に身を任せて、私はずっと姉の近くにいた赤いリボンを胸に掻き抱いた。
"手のひらの贈り物"
海の中、私はずっと漂っている。
どこに行くにも潮に任せて、深く深く沈んでいく
行くところなんて特になくて、時に暖かい潮が心地よかった。
四肢の動かし方など疾うに忘れている
きっともう陸に上がることなど叶わないが、後悔などなかった。
今日は浅瀬に流されて、久しぶりの光を感じていた。
水面が照らされてキラキラと輝いている。
それを無心で見つめていると、一等輝くものが目に入った。
必死に手を動かして、もがいてみると案外呆気なくそれは手に入った。
碧い貝殻、裏面が宝石のように輝いて日に当ててみると眩しいほどに光始めた。
こんな私に捕まるなんて、同情したが所詮無機物。
誰の手に渡っていようが関係ない。
輝くそれが手元にある言い訳に満足して、胸に抱いた。
"心の片隅で"
私の中で、あの日に押し殺したはずの感情に名前がついてしまった。
最初は小さな出来事で、積もり積もって育っていって
もう無視などできなかった。
この感情をどうするかなど私の自由ではあるが
【許されない・叶わない】ことであることはわかっている。
この感情を育てた【アイツ・あの人】に返したい。
そう願ってしまった。
願った私は【包丁・手紙】を持って家を出た。
心の小さなところで育った感情は狂った殺意か、狂おしいほどの愛情か
"雪の静寂"
ある冬の夜。寒すぎて眠れなかったのでただ起きていた。
こんなに寒いなんて、と毛布にくるまって震えているとベランダに面した窓の外でゆらゆらと揺れて落ちる白いものを見た。
毛布をしっかりと掴んだら窓を開けてみて、その軌道を目で追った。
ベランダに落ちたそれはじゅわっと消えてなくなる。
それに倣ってどんどん降ってくる。手を出してみると、同じように手で消えてなくなり、小さな水滴になった。
儚い姿とは裏腹に、冷たく手の温度を奪う。
びっくりしてぱたぱたと手を払って温める。
白い息と共に数年振りに降るそれを見て、感嘆する。
明日の朝は積もるかな
と期待を込めて、冷える体を慮って眠る支度をした。
相変わらず寒くって、加えて静寂に包まれた夜だったけれど、まるで子供のように心が弾ませて眠りについた。
"君が見た夢"
私は、ずっと眠って脱力した君の手に優しく触れていた。
なんとなく握ってしまったら壊れてしまいそうだったから
今にも起き出して、思い出話を始めそうな横顔は、眠り続けているという事実が感じられないほど生気に満ちていた。
そんなに眠って飽きないの、
それとも楽しいのかな
返ってこない質問を問いかける。
さては夢でも見ているのね、楽しい夢かもしれない
楽しくて、幸せで、現実に愛想を尽かしてしまったのかも
もし夢を見ているなら、私はその夢の座長にでもなれたらいい
私は君が喜ぶものをよく知っている。
どうしたら笑ってどうしたら泣いてどうしたら怒って。
その表情を変えるのは私でありたい。
起きないで良い、君が幸せならば
君は笑顔が一等似合うもの。
何度問いかけても動きもしない手に優しく願った。