『二人ぼっち』
このお題を見て最初に頭に浮かんだのは、サイボーグ009のラストシーンだ。
宇宙空間に一人取り残された009を
、002が助けに行くが燃料が尽きてしまい、二人は地球の成層圏に突入する。
流星のように燃え尽きてしまうふたり。
この時002のジェットが009ジョーに言うのだ。
「ジョー、きみはどこにおちたい?」
あれは、何度も思い出す名シーンだ。
『夢が醒める前に』
ねえ、どうしてそんなことを言うの。
どうしてそんな態度を取るの。
不満そうに。
つまらなそうに。
舌打ちなんかして。
そして時には、こちらを無視して。
私が淹れた淹れたコーヒー、そんなに不味いかしら。
ちょっとした隠し味を加えたのだけれど、気がついた?
ああ、もう潮時なのかもしれない。
恋って、大いなる勘違いから生まれるんだって、母方の叔母さんが言ってた。
大事なのは、それを本物に変えられるかどうかなんだって。
それじゃあ、これは偽物なのね。
勘違いで始まって、偽物のまま終わるのね。
――なら、片付けないと。
紛い物を手にしたままじゃ、本物を手に入れられないもの。
儚い夢だったわ。ほんの束の間、幸せな瞬間もあったけど。
完全にこの夢が醒める前に、不要なモノは処分しなくちゃ。手の中の薬包と一緒に。
もうすぐ、ただのゴミになるのだから。
『胸が高鳴る』
書店の平台でそれを見つけたとき、上手く言葉にはできないが、頭の中のセンサーが反応した。
所謂、「ピンときた」というやつだ。
今まで、この勘が外れたことはない。
――これは期待できる。
その瞬間から他の本には目もくれず、それをレジへと持っていった。
会計を済ませ、書店を後にする。
ああ、いったいどんな内容だろう。
裏表紙や折り返し部分の内容説明は、敢えて見ずに購入した。
面白いといいな。
私は高鳴る胸をおさえながら、家路を急いだ。
『不条理』
朝、目が覚めると右手が巨大な判子になっていた。
あまりのことに叫ぼうとしたが、口からは「承認」という音しか出ない。
慌てて病院へ向かうと、受付の看護師は私の右手を見て、慣れた手つきで書類を差し出した。
「こちらに押印をお願いします」
診察室で医者は言った。
「おめでとう。社会人の仲間入りだ」
私が「そんな馬鹿な」と抗議の声を上げると、口からは「至急・回覧」という言葉が飛び出した。
帰り道、空を見上げると、雲が巨大な書類の形をしていた。
道ゆく人々は皆、自分の体に誰かの判子が押されるのを待って列を作っている。
私はただ、自分の意志とは無関係に、目の前にある背中に「済」の赤い判を押し続けた。
『怖がり』
自分の怖がりな性格を、生存本能が強すぎるだけだと言い訳することにしている。
恐れ知らずは勇猛果敢に見えるけど、慎重さや思慮深さに欠けるのでは?と皮肉も言う。
だって、そうでもしないと不安に飲み込まれそうになるから。
深夜二時、寝室で「パチン」と乾いた音がした。
ただの家鳴りだ。木材が温度変化で反っただけ。頭ではわかっているのに、心臓はドキドキと胸を叩き始める。
私は布団を鼻先まで引き上げ、暗闇の中で目を凝らした。
もし泥棒なら?
もし幽霊なら?
想像力という名の怪物が、クローゼットの隙間を巨大な口に変えていく。
意を決して電気をつけた。そこには、床に落ちたクリップが一つ。
「……なんだ」
安堵して笑った瞬間、ふと気づく。
――職場ならともかく、うちにクリップなんてあったっけ?
途端に、背筋に氷を押し当てられたような感覚が走った。
本当の恐怖は、ほっと気を緩めた後にやってくる。