『不条理』
朝、目が覚めると右手が巨大な判子になっていた。
あまりのことに叫ぼうとしたが、口からは「承認」という音しか出ない。
慌てて病院へ向かうと、受付の看護師は私の右手を見て、慣れた手つきで書類を差し出した。
「こちらに押印をお願いします」
診察室で医者は言った。
「おめでとう。社会人の仲間入りだ」
私が「そんな馬鹿な」と抗議の声を上げると、口からは「至急・回覧」という言葉が飛び出した。
帰り道、空を見上げると、雲が巨大な書類の形をしていた。
道ゆく人々は皆、自分の体に誰かの判子が押されるのを待って列を作っている。
私はただ、自分の意志とは無関係に、目の前にある背中に「済」の赤い判を押し続けた。
3/19/2026, 9:10:19 AM