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2/13/2025, 4:22:14 AM

『未来の記憶』

風が強い。
とてもとても風が強い。
強風ではなく、暴風と言っていいほどに。

こんな日は、レイモンド・ブリッグズの『風が吹くとき』を思い出す。
とある国の片田舎に住む善良な老夫婦の、核爆弾を落とされる数日前から投下後の様子までを描いた作品だ。

彼らは何も知らない。
国がどんな状況なのかも、世界情勢がどうなっているのかも。
ある日突然風が吹き、家の周囲が変わり、自分たちの体調も変わっていくことさえ、楽観的に捉えている。
穏やかで善良で、無知だ。
やさしい絵柄なのにゾッとする絵本。

こういう本やディストピアを描いた物語は、単なる空想の産物と言いきれるのか、ごくたまに不安になる。
もしかして、この中のどれかひとつでも、誰かの未来の記憶が書かれていたりはしないだろうか。

2/12/2025, 5:08:04 AM

『ココロ』

このお題を見たとき、「コロロ」と読み間違えて、しばらくコロコロ転がる丸くて可愛い小さな何かを想像してた。

妖精とか雪や雨粒、真珠や木の実。
それがコロコロ転がっている。

それからグミのコロロ。
他のグミとは一線を画す、あの食感。
薄皮のようなものをプチッと噛むと、中身はやわく少しとろっとしている。
巨峰味やシャインマスカット味だと、あの食感がよりソレっぽく感じる。

で、お題の話。
よく見たら違った。
「ココロ」だった。

そっかぁ、でもまぁ、コロロ美味しいからいっか。

2/9/2025, 9:27:37 AM

『遠く....』

いつも、ここではない何処かへ行きたいと思っていた。

上手くいかない人間関係も、失敗ばかりして苦しい仕事も、現状を打破出来ない自分も、なにもかもが嫌で、嫌で。

「山のあなたの空遠く、幸ひ住むと人のいふ」

山の彼方の、ずっとずっと遠い空の向こうまで行けば幸福があるのだと、人は言う。

それを信じていたわけじゃないけれど、こんなに遠くまで来ても幸せになれないなんて。

深くため息をついて窓の外を見る。
ここから山は見えないけれど、幸いがあるという場所はどこにあるのだろう。

「おい! 聞いているのか! おまえとの婚約を破棄する! この国から出て行け!」

まさかこんな、異世界へ来てまで理不尽な目に遭うとは…………反撃したくなるじゃない?

2/7/2025, 8:24:45 AM

『静かな夜明け』

寒かったので、ホットココアを淹れてチョコレートを一粒口に含む。

今は寒波が到来中で、今日明日が寒さの底らしい。
深夜の作業は手がかじかむけれど、この静けさはなにものにも代えがたい。

しんと静まり返った部屋の中で、ひとり耳を澄ます。
生き物たちの眠る音、夜が更けゆく音。
それを身体に取り込んで、指先から出力する。

言葉を曼荼羅のように編み上げる。

時折綻びを見つけては修正を繰り返す。
行ったり来たり。なかなか先へと進まないが、そこを怠っては目も当てられないものになるのだ。

集中力が途切れたので窓の外へ目をやる。
夜の底が白くなった――という一文を思い出す。
あれは雪国の景色だったけど、明け方の空も白くなる。
光が差し始める前のほんの一瞬。夜と朝のあわいがそこにはあるのだ。

2/5/2025, 8:41:02 AM

『永遠の花束』

願いが叶うなら吐息を白い薔薇にかえたい、と歌う曲があった。
そして逢えない相手を想って部屋中に飾るのだそうだ。

随分と気の滅入る部屋にならないか?
薔薇が美しければ美しいほど、哀しみが際立ちそうだ。

私だったら、そうだな。
その花を集めて花束にでもして、売って売って売りまくる。
虚しさの象徴なんて手元に置いておきたくないし、相手に対するムカつきを現金に換えて可視化する。
やがて一定の額を超えたなら、その相手を捨てる決心もつくだろう。

なんだ、こんなにも蔑ろにされていたのかと。
その後ようやく、笑えるようになるんじゃなかろうか。

よく笑顔を花に例えることがある。
花がほころぶような、とか。
逆に、花が咲く様子を花が笑うと言ったりもする。
どうせ咲かせるならそちらの方がいい。

そしてそれを胸にひとつずつ集めていけば、人生の終わり頃には、きっとなにものにも代えがたい花束ができているのだろう。

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