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2/4/2025, 9:38:41 AM

『やさしくしないで』

昔から、頼み事や相談という名の厄介事を持ちかけられることが多かった。
見知らぬ人に道を尋ねられることも本当に多い。

よく言えば無害、悪く言えば舐められ軽んじられやすいのだ。

もうこの歳になると、相手がこちらの手助けを前提に困り顔をして見せているのがわかるので、手伝いを申し出たりはしない。

あなたが嫌なものは、私だって嫌なのだ。

それで、あてが外れたと憤慨されようが、しつこくこちらに関わらせようとしてこようが、ばっさり切ることに躊躇いがなくなった。
そんな輩は私にとって害である。
罪悪感を持つこともない。

もう、あなたたちにやさしくしないで生きていけるようになった。
ようやく、だ。

2/3/2025, 3:54:13 AM

『隠された手紙』

祭壇の前で組んでいた手を解き、顔を上げて周囲を見回す。
誰もいないのを確かめて、前から4列目の左端の席へと向かった。

教会へ来たのは、罪を告白するためではない。そこに隠されたものを回収するためだ。

椅子の裏を手で探ると、カサリと紙片が触れた。
手のひらの中に収まるほどのそれに目を走らせ、内容を頭に入れるとライターで火を点ける。
欠片が残らぬよう灰を揉んで風に飛ばしてから、そこを出た。

次の依頼は裏でいろいろ噂のある連邦議員の抹消。できるだけ自然な形でということだ。
いくつかの方法を吟味しながら、教会を後にした。

2/2/2025, 7:43:55 AM

『バイバイ』

子供の頃は、とにかく外で遊ぶのが主流で、みんな夕方薄暗くなるまで走り回ってた。

今思うと不思議なくらい、ただぶらぶらしてるだけでも楽しかった。
おしゃべりの種も尽きず。
暗くなって自分の影も見えないくらいになって、ようやく家へ帰るのだ。
後ろ髪を引かれながら、なにをそんなに惜しむのかもわからずに。

黄昏時は彼誰時。
外が暗くて「彼は誰か」と問う時分。

さよならは改まった感じがして、さようならだともっと重たい別れな気がして、いつも友達に言うのはバイバイだったな。

2/1/2025, 7:59:51 AM

『旅の途中』

人生を旅に例えることはよくあるけれど、それは行って帰って来る旅だろうか。
それとも行ったきり、どこか果てにある目的地へとひたすら向かう、片道の旅だろうか。

行って帰って来る旅ならば、もう折り返し地点を越えたなぁ。
終着点や目的地への片道の旅ならば、まだまだ目的地の影すら見えない。
そもそも、どこへ向かっているのかもわからない。

だから時々立ち止まって、ふうと深呼吸して周囲を見渡すようにしないと、と自分に言い聞かせる。
じゃないと迷走する自信があるから。

切れた縁や、消息も分からないほど疎遠になった人のことを想うと淋しいけど。
歩き続けている限り、それはしょうがないんだろうなぁ。

1/31/2025, 5:09:45 AM

『まだ知らない君』

差出人のない手紙を受け取って、君はさぞかし気味悪く感じていることだろう。
だけど、破り捨てるのはちょっと待ってほしい。
これから私が語るのは、君の将来に大きく関わることだから。

まずこれを書いている私は、未来の君である。
信じられないのも無理はない。私だっていきなりこんな手紙を受け取ったら、今の君と同じ反応をするだろう。

だから……そうだな、私が未来の君であることの証明に、明日君に何が起こるか書こうと思う。
この手紙を破くなり燃やすなりするのは、それを確認してからでも遅くはあるまい。

明日、君は通学途中に衰弱しきった猫に出会う。
なんとなく見過ごせなかった君は学校へ連れていき、保健室の養護教諭と共にその猫の世話をするだろう。
下校時にはその猫を抱いて、ある橋のたもとを通りかかる。

その時聞こえる声に、返事をしてはいけない。
できるなら、そこを通らないでほしい。

でも、きっと君は私の忠告には耳を貸さないだろうから、声をかけられる前提で話を進めよう。
不思議な声に驚いた君は、思わず相手に問いかけてしまう。
――お前は誰だ、と。

大丈夫、まだ最悪の事態には陥っていない。
その後のやり取りで危ういところはあるが、君はなんとか家へ帰れるだろう。
それから先のことは、その時また君へと届く私からの手紙を読めばいい。

まだ何も知らない君へ。
君の未来が少しでも明るいものになるように、私はこれを送る。

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