『未来の記憶』
風が強い。
とてもとても風が強い。
強風ではなく、暴風と言っていいほどに。
こんな日は、レイモンド・ブリッグズの『風が吹くとき』を思い出す。
とある国の片田舎に住む善良な老夫婦の、核爆弾を落とされる数日前から投下後の様子までを描いた作品だ。
彼らは何も知らない。
国がどんな状況なのかも、世界情勢がどうなっているのかも。
ある日突然風が吹き、家の周囲が変わり、自分たちの体調も変わっていくことさえ、楽観的に捉えている。
穏やかで善良で、無知だ。
やさしい絵柄なのにゾッとする絵本。
こういう本やディストピアを描いた物語は、単なる空想の産物と言いきれるのか、ごくたまに不安になる。
もしかして、この中のどれかひとつでも、誰かの未来の記憶が書かれていたりはしないだろうか。
2/13/2025, 4:22:14 AM