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1/11/2025, 9:59:58 AM

『未来への鍵』

これは未来への鍵。

そう自分に言い聞かせて、今日も鍵穴に差し込む。
しかし解錠される音はなく、扉も開かれることはない。

何度も何度も繰り返してきた。
いつか、懐かしいあの風景へ辿り着けると。

この鍵穴はなんのためにあるのだろう。
外側からしか開かない扉。
私が外へ出るには、徒労だと思っても鍵を差し込むことしかできない。

気がついたら、この部屋の中にいた。
いつの間に閉じ込められたのかもわからない。
傍らには、真鍮でできた小さな鍵がひとつ。

これは、未来への鍵。
これは、未来への鍵。
これは――

1/10/2025, 6:57:55 AM

『星のかけら』

《精霊の国は死者の国と関連する。
陽は射さず、ただ永遠の黄昏が続くだけ。》

《人が迷い込めばそれっきりで、現世に帰還するにはなんらかの使命を遂行して精霊の役に立たなければならない。》

そんな伝承を読み返しているのは、今日訃報を受けたからだ。

やさしい人だった。
傷つけられた私に「なんて酷い話だ」と慰めの言葉をかけてくれた。
どこかへ出かけると、いつもお土産を持ってその話聞かせてくれた。

訃報を知らせるメッセージに、しばらく呆然としてすぐに返信ができなかった。
その人本人には言いたいことはいっぱいあるのに、ご家族にはなんと言葉をかけていいのかわからない。

人は亡くなると星になるという。
ならばあの人がくれたやさしさは、星のかけらだろうか。

1/9/2025, 9:58:21 AM

『Ring Ring …』

みんなに私の秘密が全部知られてしまうという夢を見ていた時、リンリンというアラーム音で目覚めてほっとした。

旧式の電話の音は、初めて聞いたときからどこか気分を落ち着かせてくれる。
画面をタップして音を止めたが、静かになった部屋に誰かの息づかいが聞こえて体が強張った。

そっと周りを窺っても、人の気配はない。
しばらく息を詰めていたが、ふと手の中のスマートフォンからその不審な音が聞こえているのに気がついた。
画面を見るとアラームではなく、通話になっている。

慌てて通話を切った。
ちょっと考えてから電源も落とす。

薄気味悪さを振り切るように体を起こし、身支度を始めた。
顔を洗って朝食の支度にとりかかった時。

リンリンと音がした。
さっき止めたはずなのに、また。

1/8/2025, 7:31:50 AM

『追い風』

背を押す風に身を任せ、なんとなくぽてぽてと歩く。

寒いけど体はがっちり着込んで防寒しているし、ニット帽に覆われた耳も暖かい。この時期は、マスクも防寒具になる。

白い山茶花が清々しい。
赤い椿は艶やかだ。
まだ黄色いあの実は千両だな。
あっちの赤いのは万両か。
背の高い笹のような葉に赤い実は南天。
鈴なりに生っている黄緑色は金柑か。

スマートフォンでパシャパシャ写真を撮って、あとでSNSにアップしようと保存する。

病み上がりで体力が落ちているからと散歩に出たが、なかなか良い気分転換になった。

風の吹くまま、気の向くまま。
そういうのも、たまにはいいな。

1/7/2025, 9:46:20 AM

『君と一緒に』

あの日あの時、僕は君と一緒にいた。
それは他ならぬ君が一番よくわかっていることだ。
なのに、なぜ君は僕を責めるように見ているのか。まったく理解できないね。

例えばの話。
君が抱いている疑念が正しかったとして、僕はどうやって事に及ぶ事が出来たのだろう。
この街の住人であの大学の卒業生は君だけだ。他の皆にはそこまでの頭も経済力もないからね。
事件現場にはあの大学の卒業記念バッジが落ちていた。
もう一度言うけれど、この街であの大学を卒業しているのは君だけだ。当然あのバッジを持っている住人もいない。君を除いては。

さて、決定的ともいえる証拠の品のおかげで君は拘置所に留め置かれた。
その間、君のご両親が僕のところへやってきてね、頭を下げて頼まれたんだ。なんとしてでも息子を助けてたい知恵を貸してくれ、と。

君は随分と僕のことを買ってくれていたようだね。ご両親に君が僕をいつも褒めていたことを聞かされて面映ゆかったよ。
ならば僕はその友情に応えなければならない。
だからちょっとだけ、そう、ちょっとだけ、ご両親に零したんだ。もしもの話をね。

もしも近日中に、似たような殺人事件が連続して起きたとして、そのいずれにもあの大学の卒業バッジが落ちていたとしたら、君ではない誰かの手による連続殺人事件と警察は考えるのではないか、と。
だって君は拘置所という完全なアリバイが証明される場所にいるのだから。

ご両親は知らなかったようだが、僕はあの大学の卒業記念品を取り扱っている洋品店を知っている。ここから電車に乗って1日で往復して帰ってこられることも。
大事な思い出の品を失くしてしまって買い直す人間が、多くはないがそこそこいることも。

ところで、僕はあの大学で君と同期だった男とよく似ているらしい。その彼が、つい最近バッジを買い求めたらしいが、不思議な縁だね。

さて我が友よ。
もう帰ろう。ご両親が待っているよ。
愛情深いお二人に早くその顔を見せてあげなくては。

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