『君と一緒に』
あの日あの時、僕は君と一緒にいた。
それは他ならぬ君が一番よくわかっていることだ。
なのに、なぜ君は僕を責めるように見ているのか。まったく理解できないね。
例えばの話。
君が抱いている疑念が正しかったとして、僕はどうやって事に及ぶ事が出来たのだろう。
この街の住人であの大学の卒業生は君だけだ。他の皆にはそこまでの頭も経済力もないからね。
事件現場にはあの大学の卒業記念バッジが落ちていた。
もう一度言うけれど、この街であの大学を卒業しているのは君だけだ。当然あのバッジを持っている住人もいない。君を除いては。
さて、決定的ともいえる証拠の品のおかげで君は拘置所に留め置かれた。
その間、君のご両親が僕のところへやってきてね、頭を下げて頼まれたんだ。なんとしてでも息子を助けてたい知恵を貸してくれ、と。
君は随分と僕のことを買ってくれていたようだね。ご両親に君が僕をいつも褒めていたことを聞かされて面映ゆかったよ。
ならば僕はその友情に応えなければならない。
だからちょっとだけ、そう、ちょっとだけ、ご両親に零したんだ。もしもの話をね。
もしも近日中に、似たような殺人事件が連続して起きたとして、そのいずれにもあの大学の卒業バッジが落ちていたとしたら、君ではない誰かの手による連続殺人事件と警察は考えるのではないか、と。
だって君は拘置所という完全なアリバイが証明される場所にいるのだから。
ご両親は知らなかったようだが、僕はあの大学の卒業記念品を取り扱っている洋品店を知っている。ここから電車に乗って1日で往復して帰ってこられることも。
大事な思い出の品を失くしてしまって買い直す人間が、多くはないがそこそこいることも。
ところで、僕はあの大学で君と同期だった男とよく似ているらしい。その彼が、つい最近バッジを買い求めたらしいが、不思議な縁だね。
さて我が友よ。
もう帰ろう。ご両親が待っているよ。
愛情深いお二人に早くその顔を見せてあげなくては。
1/7/2025, 9:46:20 AM