イオリ

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6/5/2024, 10:42:46 PM

誰にも言えない秘密

 目の前の空を魚が泳いでいる。種類は様々。名前は知らない。大きい時もあるし小さい時もある。一匹の時もあるし、群れの時もある。

 幻覚だ。僕にだけ見える。

 いつからかは忘れた。理由も知らない。見える日もあるし、ずっと見えないこともある。

 突然現れたとしても、ああ、そうかと思うだけ。慣れた。

 ただ、唯一、戸惑うことがある。巨大な一匹のクジラ。彼が現れると、必ず死に出会う。最初は祖父、十年後に祖母。その翌年、目の前で交通事故があった。知らない人だった。

 彼はゆったりと進む。何にも動じず、ゆったりと。

 見えるのは全体像だ。だから、かなり距離はある。

 が、ある不思議な確信がある。

 目だ。彼は僕を見ている。離れているから実際には見えないが、確信がある。視線を感じる。

 なぜ、なぜ僕なのだろう。なぜ僕を見るのだろう。

 
 6月6日。7時。
 
 晴天の東の空を、巨大な尾を揺らしながら彼が泳いでいく。

6/4/2024, 9:57:09 PM

狭い部屋

 生き物がいると、生活に張りが出てくる。狭い部屋で生活していると尚更そう感じる。

 犬や猫の場合は、伝えた愛情が返ってくるからわかりやすい。植物の場合は、花が開いたり枝が伸びたり、新葉が艶を輝かせたり。無言でも変化が見えて楽しい。

 難しいのは、窓際の金魚鉢の住人だ。餌をやるときは反応があるが、それ以外はいつも変わらず。笑いもせず声もあげず。

 可愛いと思うときもある。でも、やるせない気持ちになるときもある。小さな命をコントロールしている、小さな優越感に浸っているだけなのかも、と。

 本当はこんな小さな鉢から出て、大河を旅したいと思っているのかも、と。

 そしてたぶん、それは自分自身のことなのだ、と。

 そんなことを考えながら、ごめんな、と言いながら鉢の中に餌を放つ。

6/3/2024, 10:23:28 PM

失恋

 自然に消えてしまった恋。どちらからともなく離れてしまった。追いかけることもその逆もなかった。ただ消えた。

 友人は何も言わなかった。友人も若かったから。アドバイスも思いつかなかったのだろう。

 そういう恋もあった。若かった。

 
 という話を年上の彼女にした。

 別れましょ。

 え? 心臓が止まった。

 どうして。

 嘘。言ってみただけ。 彼女が笑顔で返す。

 止まった心臓が動き出す。血流が再開するのを感じる。

 なに、その嘘。やめてください。

 追いかける?追いかけようと思った?

 ……思った。

 よし。 と彼女が言う。

 安心してね。振るときは、ちゃんと振ってあげる。これ以上ないってくらい明確に。はっきりと。心臓が止まるくらい。

 ……お手柔らかにお願いします。また止まっちゃうから。

 

6/2/2024, 10:23:02 PM

正直

 白状すると、僕は平気で嘘をつく。あまり意味のない嘘。まあどうでもいい会話、というか相手なんだろう。全く心が痛まず嘘を吐ける。

 どちらかといえば、正直に話しているときのほうが、心が不安になる。こちらが正直に話しているから、相手もそうあって欲しい、と無意識に勝手に押しつけているような気がして。

 それで上手くやり取りが出来ないと、イライラして。疲れるなぁ。

 その点、猫はいいよね。絶対に正直しかないから。機嫌が悪い時は我慢せずに怒るし、機嫌がいい時はしっぽがピンとするし。

 いいなあ。僕も猫として生きていきたい。

6/1/2024, 10:24:35 PM

梅雨

 梅雨は、なぜ梅と雨なのか。答えは単純で、梅が熟す頃の雨だから。

 今朝、畑の梅の木を見てみた。ほんのり赤みがついた実がたくさんなっていた。なってはいたが、小さい。全国的に今年は小さいと聞いてはいたが、まさかこれほど小さいとは。まあ仕方ない。こういう年もあるさ。


 梅林止渇(ばいりんしかつ)。一時的な困難を別の方法でしのぐ。

 行軍中の兵士に、もう少しで梅林がある、と言って梅を想像させて唾液を出させ、それで喉の渇きをしのがせた、という三国志由来の故事だ。

 実際に言ったのかどうかはわからないが、名将曹操ならば、と思わせる、中々に面白いエピソードで気に入っている。

 ただ、自宅で梅を作る人ならわかると思うが、木から取ってそのまま食べることはまずない。基本的には梅干し、その他は梅酒、甘露煮、ジャム等々。何かしらの処理をしてから食べるはず。真っ赤に完熟したものなら食べることはできるが、それでもそのまま食べる人は僕は知らない。もちろん青梅はダメ。おすすめしない。

 なのでもし曹操軍が本当に梅林に辿り着いたとしても、実際に口にすることは難しかったのではないか、と密かに思ってはいる。ちょっと大人げないかな。

 
 さて、我が家の小梅たちはどうしてくれよう。食べられないと言うほど小さい訳では無いが、やっぱり少し寂しい。この困難は……。数で補おう。今まで1個食べていたのを2個にしよう。よし、これで解決だ。

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