この場所で
外国、例えばアメリカや中国やEU諸国から抗議があったり説明を求められた場合はどうでしょうか。ひとつひとつ丁寧に返答するのではないですか。
少なくとも記憶にございません、とは言わないでしょう。ではなぜあなたは、この場所でなら記憶にございませんを言っていいと思っているのでしょう。一度ならず何度も何度も。
それはこの場が国会だからです。つまり国内だからです。もっとはっきり言えば、相手が国民だからです。諸外国には礼儀を重んじ、国民には軽んじる。大臣、あなたにはそういう意識が潜在的にあるのではないですか。
大臣クラスの発言は、影響が大きいですから、もっと緊張感をもって発言していただきたい。記憶にございませんを連発することが、国民にどう思われるのか、少なくともそのぐらいのことを想像するぐらいはしてください。
ちょっと言いすぎたかな。
誰もがみんな
りんごの皮むきは得意だ。半分にして半分にして、あとはすうっと剥く。調子がいいと2回くらいできれいに剥ける。
玉のままくるくる剥いていくやり方もできるけど、カットしてからのほうが楽。
以前テレビで、くるくる剥きでなんでも剥いていく料理人を見たことがある。
りんごや柿はもちろん、メロンやスイカ、パイナップルまでくるくる剥いていくのだ。実に見事な手さばき。
出来上がった果物も、キラキラして見えて美味しさ5割増って感じだ。
たかが皮むきだけど、あれを見たら、あんなふうにできたらなと誰もが思うに違いない。
でも、りんごはカットしてからのほうが絶対にいい。うさぎもできるし。
花束
花束をプレゼントしたことなんてない。けど大人の男はこんなこと、恥ずかしがらずに、さらっとできなきゃいけないはず。
生まれて初めて、花屋へ行った。なんと頼めばいいのかわからず、とりあえず二千円分を適当に見繕って、束にしてもらった。
出来上がったものを見て、ふと思った。もう少し多いほうが、渡すときに顔が隠れて、恥ずかしさを隠せるのではないかと。
申し訳ないと店員に謝り、追加して三万円分の束にしてもらった。
花屋を出た。両手で抱えながら、彼女の家に向かう。これだけの大きさなら、赤くなっている顔も隠せるだろう。
いや、待てよ。渡したあとはどうだろうか。ずっとそっぽを向いているわけにもいかない。さて。
酒屋でワインを買った。花束を渡したらすぐ栓を開けよう。僕は下戸だが、そんなことは言ってられない。早く酔って、頬を赤くする。これで恥ずかしがってるのは、ばれないはず。
いや、待てよ。花束のプレゼントなんて初めてだし、飲めないのに酒を飲んだりしたら、怪しまれないだろうか。恥ずかしさを隠そうとしているのがばれないだろうか。
靴を買った。ダンスシューズ。ワインのあと、彼女の手をとって、Fly Me To The Moon をかけてふたりで踊ろう。僕は踊ったことがないからきっとぎこちない。きまりの悪さで照れ隠しに笑う。これで花束の恥ずかしさをカモフラージュできるはず。
右手にワイン、左手にダンスシューズ。花束を両腕で抱えて彼女の家に向かう。
これで大丈夫。花束ぐらいで恥ずかしがっているのは、絶対にばれない。大人の男だからね。
スマイル
スマイルマーク、スマイリーフェイス、ニコちゃんマークなど、様々な笑顔のイラストがある。
基本は、丸の中に目と口だけで笑顔を表す。たったこれだけなのに、豊かな表情を見せてくれる。親しみやすくて実に面白い。
ということで、手帳を開いて描いてみた。
が、どうにも上手くない。全然ハッピーに見えない。なぜか。
よく見ると、丸が歪な丸なのだ。何度描いてもきれいな丸にならない。どこか歪んでしまう。シンプルなデザインだけに、ほんの僅かな歪みで、全てが台無しに見えてしまう。
笑顔って難しいんだな。意図して作った笑顔で、人をハッピーにするって本当に難しい。そしてすごい。
僕の作り笑顔が、相手をハッピーにしないとしても、無理してるな、と思われなければいいな。
どこにも書けないこと
日の出前、薄闇の中全力でペダルを漕ぐ。
勢いのままに、自転車を飛び降りた。
周囲には誰の姿もない。倒れた自転車を見向きもせず、とりあえず歩いた。
何かを踏んだ。木だ。湿った小さな切れっ端のような木。しゃがんで手に取った。棒を握る様にそのボロボロの木を掴んで、先端で地面をなぞる。
思いのまま書いた。
自分の弱さ、優しさ、昨日のうわべのセリフ。
ネットで見た、世界の美しいもの、醜いもの。
何かのためというわけじゃない。ただ書いただけ。そうしたかっただけ。
帰ろう。起こした自転車に付いた砂を手で払った。振り返って、乱雑な文字を眺める。
もうすぐ一日が始まる。潮が満ちる。
波が全て消してくれる。