イオリ

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花束

 花束をプレゼントしたことなんてない。けど大人の男はこんなこと、恥ずかしがらずに、さらっとできなきゃいけないはず。

 生まれて初めて、花屋へ行った。なんと頼めばいいのかわからず、とりあえず二千円分を適当に見繕って、束にしてもらった。

 出来上がったものを見て、ふと思った。もう少し多いほうが、渡すときに顔が隠れて、恥ずかしさを隠せるのではないかと。

 申し訳ないと店員に謝り、追加して三万円分の束にしてもらった。

 花屋を出た。両手で抱えながら、彼女の家に向かう。これだけの大きさなら、赤くなっている顔も隠せるだろう。

 いや、待てよ。渡したあとはどうだろうか。ずっとそっぽを向いているわけにもいかない。さて。

 酒屋でワインを買った。花束を渡したらすぐ栓を開けよう。僕は下戸だが、そんなことは言ってられない。早く酔って、頬を赤くする。これで恥ずかしがってるのは、ばれないはず。

 いや、待てよ。花束のプレゼントなんて初めてだし、飲めないのに酒を飲んだりしたら、怪しまれないだろうか。恥ずかしさを隠そうとしているのがばれないだろうか。

 靴を買った。ダンスシューズ。ワインのあと、彼女の手をとって、Fly Me To The Moon をかけてふたりで踊ろう。僕は踊ったことがないからきっとぎこちない。きまりの悪さで照れ隠しに笑う。これで花束の恥ずかしさをカモフラージュできるはず。

 右手にワイン、左手にダンスシューズ。花束を両腕で抱えて彼女の家に向かう。

 これで大丈夫。花束ぐらいで恥ずかしがっているのは、絶対にばれない。大人の男だからね。

2/9/2024, 1:08:13 PM