イオリ

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どこにも書けないこと

 日の出前、薄闇の中全力でペダルを漕ぐ。

 勢いのままに、自転車を飛び降りた。

 周囲には誰の姿もない。倒れた自転車を見向きもせず、とりあえず歩いた。

 何かを踏んだ。木だ。湿った小さな切れっ端のような木。しゃがんで手に取った。棒を握る様にそのボロボロの木を掴んで、先端で地面をなぞる。

 思いのまま書いた。

 自分の弱さ、優しさ、昨日のうわべのセリフ。

 ネットで見た、世界の美しいもの、醜いもの。

 何かのためというわけじゃない。ただ書いただけ。そうしたかっただけ。


 帰ろう。起こした自転車に付いた砂を手で払った。振り返って、乱雑な文字を眺める。

 もうすぐ一日が始まる。潮が満ちる。

 波が全て消してくれる。

2/7/2024, 10:34:27 PM