君の背中を追っていた
ずっと走っていたかった
いつからか横に並んだ
走るのをやめた
歩き始めた
息を切らし
足を前へ前へと
手のなる方へと
君の背中以外見えてなかった
あのころの僕
君を捕らえておきたいのは、
あのころの僕
いまの僕は
いまの、僕は
泥のような思考の中で
君の手を離そうとして
何かがはじけて覚醒する
胡乱な円環を回していて
直線じゃないのはきつくて
世界の輪郭がほんの少しだけ見えてきて
代わりに君の顔が
なんだか見えにくくなってしまったみたいだ
君の背中を追っていたかった
どうしても、掴むことができない。
羽根。いや、ちがう。わたぼうし。それともちがう。
ちらちらと舞っている。きらきらとしたなにか。
手を伸ばす。
しかし、するり、と。
軽快な身のこなしで逃げていく。透明の衣をまとった踊り子のよう。
僕はどうしてもそれを掴みたいというわけではないんだけれども、しかしなんだかあきらめきれない、といった複雑な気持ちで、手を伸ばし続ける。
手を。
この手は僕のものなんだろうか。
うまく操れていない気がする。
いつまでたっても掴めない。その光を。
指の隙間から、抜け落ちていく。
さらさら、さらさら。
踊りをやめて、今度は砂のようになる。いずれにせよ、とらえることはできない。
つよく力をこめて握りつぶすことも怖くて、僕はおんなじことを、無為な戯れを繰り返す。
そのうち、なんだかとてもつかれてしまった。
ようやく訪れた「諦め」という感覚とともに、ふっと頭上にあたたかさを感じた。
どこからか、陽がさしてきたのかもしれない。
透明で小さな瓶の中に、さらさらとした青色の砂が入っているのだ。その青い海の中に、星々をあらわすかのような金色、ちかちか光る粒もいくらか混じっている。私は机に左側の頬を押し当てて、要するに突っ伏す形で、無気力にその星を眺めている。
色々なことを、ゆっくり忘れていく。
他愛もないことごとは、さらさらと無に帰していく。失っていることにも、気づかないうちに。
この小瓶は思い出を纏っているけど、なにかが決定的に失われている。
私は知らず知らずのうちになにかを失い、得て、少しずつ変容している。
他の人の中の私も、いつか消えていく。
濾過されて、濾過されて、思いもかけないかけらだけが残されるのかもしれない。
いっそ完全に綺麗さっぱり消えたい。ような気もする。
青い砂はうつくしいけど、小瓶ごとごみ箱に放り投げた。
残るのは、自分の息遣いだけ。
まぶたを閉じる。
からだからぬけおちていく。
ないはずの鱗が。
ないはずの殻が。
ないはずの羽が。
はらはらと落ちていく。
もっている気になっていたものを、失った気になって、
喪失感を感じている。
失われる感覚こそあれど、
僕はどこかから補充されるのだろうか。
いつか、なくなってしまうのかも。
もとから、いないのかも。
半分溶けながら、存在している。
まぶたをひらく。
空間がある。部屋がある。空気はここに充満している。
ひとまず、ここにいる。世界がある。
少なくとも自分は、自分がこの世界のどこにいるのかわかっている。
それくらいで、存在しててもいいのかも。
夏が終わり、秋が来る。
働いて、自立しなさい。と言われる。
私は真面目なため、言われたとおりに、ほどほどに働いて、働いて、ほどよく一生が終わった。
つらかったら休んでもいい。と言われる。
私は真面目なため、今度は厳しいが給料の多い仕事で限界まで働いた結果、体を壊してようやく休む。そして、どんな歩み方をすればいいのか悩み続ける。いつかなにかを成せるはず、と思いながら、でもなにを成したいのかわからないままに一生が終わった。
もういちどあそびますか。
何を求めてあそんでいるのかわからない。
前回できなかったことをやろうとし、やって、迷って。
明確なゴールもなければボスもいない。
でも、何度も何度も繰り返してしまう。これが、執着なのだろうか?
ぼんやり思いながら、わたしはまたリプレイを押す。