題 私の名前
呼吸が浅くなっていく…目の前で大事な人の命の灯火が消えようとしている。
座り込んでいる金髪の少女は幸せそうな顔だ。
対して、ひざをついて膝をついている黒髪の少女は今にも泣きそうな顔をしている。
周りにいる部下はとても驚いたような顔をしている、当たり前だろう…自分達にとって敵な存在に対して涙を流している。しかもこの黒髪の少女は普段冷静で、あまり感情を出さないのだから。
金髪の少女が困った顔になりながら言葉を紡ぐ
泣かないでよ…___が生きてくれているだけで、私は嬉しいんだ。
黒髪の少女は涙声ながらも、半ば叫ぶように言う
無理に決まっているじゃない!お願い生きて…貴女がいない世界で私だけでどうやって生きていけばいいの?貴女がいなければ、私がここにいる必要なんてないもの!
そんなこと言ったらダメだよ…
金髪の少女はそう言って___の部下であろう人たちを見渡す
こんなにも優秀な人たちが頑張っているんだから、君が支えてあげないと……みんなも___をよろしくね。…………ねえ、私の名前最後に呼んでくれる?
『 』
消えるような声で黒髪の少女が名前を呼ぶ
………ありがとう
そう言って金髪の少女は永遠の眠りについた
題 私だけ
悲しいな…あの頃から変われてないのは私だけだなんて
執務室で何人かと仕事をしている中ふと、自分の上司である黒髪の少女が言った。何故急にそのような考えに至ったのか甚だ疑問に思うのだが、流石に空気を悪くさせられたらこっちが居た堪れなくなるので取り敢えず否定をしておく。
…私は貴女と出会う前のことを知らないのであまり言えることはないのです…が、私が知る限り、貴女も変われたと思いますよ
書類にサインをしながら淡々と言う。
…うん、そうだね。君たちと出会ってから…いや、この国に来てから何もかもが違った。そして思ったんだ、あの子がいない人生なんて生きている意味がないって
そう言うが、この人の第一印象は明るい人だった。その分裏が読めなくて、恐ろしくもあった。
けれどある日を境に、本心を少しずつ見せてくれるようになって…
ほら、やっぱり変わっているじゃないですか
今回は自信満々に言える。自分だけ納得してうんうんとしていると、少女はこっちを見てこう言った
君たちと話していると時々、遠い日を思い出すよ
題 遠い日の記憶
今日の報告を終え、目の前にいる若き上司の…そう、若くして大尉の立場まで成り上がった黒髪の少女が目を伏せ、少しゆったりとした姿勢で言った。
別に……今の環境が好きではないと言うわけではないけれど、やっぱふとした時に思い出してしまうよ。遠い日の記憶を…
そう言って少し顔を上げ、こちらを見て…いや、見ているようで実際はその向こう側を見ているようだ。何を考えているのか分からないその目を見て、次の言葉を待った。
私ね、とても大切な人がいるの。この国よりも、誰よりも大切な人。
その人は…
どのような人かと聞こうとしたが、鋭い目線により言葉が詰まってしまった。…この目は自分の敵になるのか確かめる時の目だ。
それにしても、この立場で「この国よりも」と言うとは…
少し沈黙があり、少女はふっと笑う
幼い頃にその人とよく、家の近くにあった森の中で遊んでいた記憶。そりゃあ楽しかったね。いや…こんなことを話している場合では無かった。この話は終わりにしよう。
題 終わりにしよう
「その」言葉はどちらが言ったのだろうか
いや…どちら「が」では無い、どちら「も」言ったのだ。
お互い心残りがあるようだが、決心が着いていたのか言葉にするのは早かった。
相手を一番幸せにできるのは自分だけだと、お互いに自負しているのにも関わらずこうさせてしまったのは、他でもない彼女等だ
自分達の選んだ道によって、自分達の未来が引き裂かれてしまうなんて、笑えない冗談を…
だが、実際そうなってしまうなんて…これはある一種の運命だと受け入れるとしよう。
黒髪の少女が微笑んで言う
これでまた一緒だね
金髪の少女が嬉しそうに言う
あなたと一緒にいられて良かった
二人は手を取り合って、「その」言葉を告げた
題 手を取り合って
雲一つない青空の広がる晴天
水平線まで広がる野原
草は膝まで伸びている
幼い頃はいつも一緒にいた少女二人
今だっていつもお互いのことを一番に思っている
けれど二人はこんなにも離れた場所にいる
近づくこともできない
何が…いや、そんなこと分かっている
環境がこの状況を作ったんだ
黒髪の少女が笑みを零して言う
一緒に帰ろう
金髪の少女が涙を零して言う
生きていて欲しい
二人は笑う
二人の世界の中で笑う
周りの惨状を知らずに
そして、、手を取り合うなんて許されない