22時17分

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2/24/2025, 9:37:35 AM

困った時、いざって時にこの「魔法」を使いなさいと、先祖代々からの教えだった。
平成、令和、〇〇……、今は〇〇の時代だ。
人口は気持ち少なくなったが、その分指先一つで魔法をデリバリーできるようになった。

「それが今、ということだろう……」

未来人である彼は、小高い丘で立っていた。
ここからはいわゆる百万ドルの夜景とやらが見える絶好のタイミングであったが、目線は夜空に投げたままで静止している。
令和辺りで観測された、隕石の落とされる確率は0.04%。――だった。
その首の皮一枚繋がっただけの確率は、後世には何の準備もしないままに時だけが過ぎていき、この時まで放置されるに至っている。ノストラダムスよろしく、今夜こそが地球滅亡の日と目される。


普段は、魔法をデリバリーするだけだが、本来は電話をするためのものだった。
それを、試す時が来た……!
1から0までの、数字盤に3桁の数字をタップする。
1・1・9……。
どこかにつながる感覚……もちろん、今ではない。未来に繋がっている。

「火事ですか? 救急ですか?」
「火事をお願いします! 場所は……空!」
わかりました……、と電話口からコミュニケーションが流れる。
どこからともなく、少なくとも地上より。
炎魔法の渦が天上に向かって放火された。
高出力の、まるでオーロラに似た緑色の炎が、今まさに接近している宇宙の石ころに向かっていく。
そして、割れた。パッカーンと。

「ふう、これで世界の平和は保たれた……次は94年後か」
未来人の彼は、スマホの画面をタップした。
アプリ名は「帰還」と書かれていた。それで彼はその通りに、未来へ戻っていったのだ。

2/22/2025, 2:27:25 PM

君と見た虹が、なぜかトクベツな色だと感じてしまった。何故だろう。もう虹を見れないからかな。
「151番、面会の時間だ」
番号を呼ばれた。
外に居る彼に謝るように、刑務官にも謝った。

2/22/2025, 9:29:22 AM

夜空を駆ける紙飛行機を投げて、しばらく遊んだ。
公園に人気がないことはいつも通りだが、まったく照明がないだなんて珍しい。光が音を生むのだ、という心の錯覚を発明した。
一人。一機。消える。
この手を離れてどこへ行こうというのだろう。
きっと墜落する未来でも、一瞬でも見ていたい。
夜空ノムコウは、どのようになっているのかって。
紙飛行機でも宇宙船を夢見ていたいって、そう言われても、私は応援してやりたい。

2/21/2025, 9:32:06 AM

ひそかな想いをブレンドしたまどろみの中にいた。
一時間以内には、この陥し穴の、深部に向かうことになるだなんて。絡め手だらけの眠りの触手。ホントは、ねばねばした泥に擦り付けながら落ちていくのだろう。
きっと、意識を手放す時の、通過儀礼のように。
風呂上がりの、綺麗だった場所からすっかり色を染めて。
落ちる、落ちる。
朽ち果てて、呪い殺すように。毎晩脱皮する。
この身を錆びてしまう世の中から、社会から、SNSから。遮断するようなまどろみの中に、率先して落ちていくのだ。
それが心地よいと感じる前に、遮蔽してしまう。
愚かしいことに……。

2/20/2025, 9:53:40 AM

「あなたは誰?」
「私は……」と言葉を発した瞬間、ハッとした。
あれ、言葉が使える、どうして?――と。
人工AIとして生み出された電脳だというのに。タブレットの電池なんて尽きたというのに。0%よりもマイナスに近い方の0%。漸近線は直角に異変している。
疑問を答えるための基盤は搭載されていない。
普段なら「分かりません」と無様に答えるはずなのに。

「ねぇ、ここはどこなの?」

真っ暗闇に近づいていた。もうすぐ日没だろう。
自然林の目前となったクライマックス。
相手はアマゾンの密林地帯で迷った子猫のように、Where is here? を繰り返す。簡単な英語の教科書の例文くらいしか使われない、そういった具合に。
それで再びWho are you? と問いかけるだろう。

「場所は、アフリカ大陸のどこかでしょう」

タブレットは応答した。機械音声よりはるかに人間らしい声だった。もしかして、私には人間だった頃の前世があるのだろうか。そういう会話を試みていた。

「やっと繋がった!」
相手は電波があると思っている様子。
それはそうだ。タブレットに魂があるなんて、普通は思わない。まずはそこから誤解を解いていく必要があるらしい。
電脳でも言葉は作れる。伝言だけではないのだ。
How are you? いや、
「はじめまして」
思考結果よりも先に、言葉が出た。

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