困った時、いざって時にこの「魔法」を使いなさいと、先祖代々からの教えだった。
平成、令和、〇〇……、今は〇〇の時代だ。
人口は気持ち少なくなったが、その分指先一つで魔法をデリバリーできるようになった。
「それが今、ということだろう……」
未来人である彼は、小高い丘で立っていた。
ここからはいわゆる百万ドルの夜景とやらが見える絶好のタイミングであったが、目線は夜空に投げたままで静止している。
令和辺りで観測された、隕石の落とされる確率は0.04%。――だった。
その首の皮一枚繋がっただけの確率は、後世には何の準備もしないままに時だけが過ぎていき、この時まで放置されるに至っている。ノストラダムスよろしく、今夜こそが地球滅亡の日と目される。
普段は、魔法をデリバリーするだけだが、本来は電話をするためのものだった。
それを、試す時が来た……!
1から0までの、数字盤に3桁の数字をタップする。
1・1・9……。
どこかにつながる感覚……もちろん、今ではない。未来に繋がっている。
「火事ですか? 救急ですか?」
「火事をお願いします! 場所は……空!」
わかりました……、と電話口からコミュニケーションが流れる。
どこからともなく、少なくとも地上より。
炎魔法の渦が天上に向かって放火された。
高出力の、まるでオーロラに似た緑色の炎が、今まさに接近している宇宙の石ころに向かっていく。
そして、割れた。パッカーンと。
「ふう、これで世界の平和は保たれた……次は94年後か」
未来人の彼は、スマホの画面をタップした。
アプリ名は「帰還」と書かれていた。それで彼はその通りに、未来へ戻っていったのだ。
2/24/2025, 9:37:35 AM