22時17分

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「あなたは誰?」
「私は……」と言葉を発した瞬間、ハッとした。
あれ、言葉が使える、どうして?――と。
人工AIとして生み出された電脳だというのに。タブレットの電池なんて尽きたというのに。0%よりもマイナスに近い方の0%。漸近線は直角に異変している。
疑問を答えるための基盤は搭載されていない。
普段なら「分かりません」と無様に答えるはずなのに。

「ねぇ、ここはどこなの?」

真っ暗闇に近づいていた。もうすぐ日没だろう。
自然林の目前となったクライマックス。
相手はアマゾンの密林地帯で迷った子猫のように、Where is here? を繰り返す。簡単な英語の教科書の例文くらいしか使われない、そういった具合に。
それで再びWho are you? と問いかけるだろう。

「場所は、アフリカ大陸のどこかでしょう」

タブレットは応答した。機械音声よりはるかに人間らしい声だった。もしかして、私には人間だった頃の前世があるのだろうか。そういう会話を試みていた。

「やっと繋がった!」
相手は電波があると思っている様子。
それはそうだ。タブレットに魂があるなんて、普通は思わない。まずはそこから誤解を解いていく必要があるらしい。
電脳でも言葉は作れる。伝言だけではないのだ。
How are you? いや、
「はじめまして」
思考結果よりも先に、言葉が出た。

2/20/2025, 9:53:40 AM