22時17分

Open App
8/26/2024, 4:17:34 AM

1次元と2次元が「向かい合わせ」の席についた。

どちらも人間が作った概念であるので、正確な表現を使うと、窓の正面になるように、PCの向きを変えた、というべきだろう。

1次元は向かって左にあり、3階から景色を見下ろせる窓そのもの。見方を変えれば3次元の世界の入口となる。
2次元は向かって右にあり、窓の正面にあるPC。
PC画面は今、とあるSNSトレンドが映し出されている。
購入者とその操作者は、どちらも気まぐれな人間である。

夏になった。
1次元の窓からはいつも、内海の穏やかな青い海が見下ろせた。
いつも穏やかで、人間たちの喧騒を知らないでいる。
海の上にはピアニストの指先のように、左から右へと滑らかに動く漁船があった。

しかし2次元の世界であるPC画面はいつも荒波が立ち、穏やかを知らないでいる。
包装紙、ペットボトル、マイクロプラスチック……
現在の海はゴミだらけであり、魚もまともに生きていけない。
毒素の溶け込んだ病巣であり、きれいな海などこの世にはもう存在しない。
ましてや1次元の窓が映し出す風景はもう見れない、とネットの海で口々に主張した。
自身が自身のゴミを見分けられないでいるのである。

秋になった。
1次元の窓は、眼下の風景が緑から色づき、赤や黄や紅葉の色を楽しめた。
近くに神社があり、お稲荷さんの顔にかかるもみじの葉の香りが、こちらまで届いてくるかのようだった。
時折秋の大風が、落葉の集まりを吹き壊して空中散歩へといざなうようで、一枚、また一枚と窓からやってくる。
気まぐれな人間はそれを見ては拾い、栞として加工する。

しかし、2次元はいつも季節の区切りを知らず、どうどうとざわめいている。
最近のトレンドは秋が遅れていることに対しての憂慮であり、まだ秋は来ないのか、などと言っている。
こちらはもう秋がやってきたというのに、一歩も外にもでずに近場まで秋がやって来ないことに関してつぶやき果てているのである。

冬が来た。
1次元の窓は雪化粧にされ、室町時代の水墨画のような白黒のはっきりする景色となった。
気まぐれな人間は、あまりに寒いとわかっているにもかかわらず窓を開け、外の空気と換気する。
着ぶくれしたガウンの外着に手袋、マフラーなどを着て外に赴き、何もない冬の空の下を散策する。

一方2次元の世界は相変わらずの内々しさであり、陰鬱である。インドアのインドアを決め込んでいる。
何やら芸能人の不祥事を皮切りに、他人の寒々しくあかぎれの肌に塩を塗り込む行為に勤しんでいる。
自身も防寒着も着用しないので、キーボードを叩く姿は暖房器具のオンオフを忘れているがごとくである。
指先の爪に火を灯し、火傷を負って恨み骨髄である。

気まぐれな人間には知らない、芸能人はその後、無期限の活動休止へ追いやられた。
季節が暖かくなる頃には、事実上芸能界引退に至り、その裏ではその人の自殺説も流布されているという。

春になった。
1次元の窓からは、気まぐれな人間が所有している庭の草花が芽吹いている。
水やりを終えた気まぐれな人間は、ふとした気まぐれに従い、この対面の構図を一枚の写真に収め、それをSNSにあげることにした。

左に1次元の窓、右に2次元のPCの構図。
1次元だというのに演出をしたようで、ふわりとした風を受け、カーテンはあまく弧を描いた。
一方2次元は何もせず、ノートPCの平面さを主張し、横方向からの構図のため、2次元の世界は見えない。

狭い世界に桜吹雪が吹くように、桜の花びらが隅々まではいきわたるように。
2次元の世界に2次元の写真のそれに、三万のいいねが届いたが、気まぐれな人間に会いに来たものは一人もいなかった。すべて2次元を通して……のみである。

夏になった。
窓の景色は今、漁船の浮かんだ青い海を映じている。
船は自然の力のみの無音さで、左から右に流れていった。
PC画面は相変わらずであり、気まぐれな人間の投稿したものは忘れ去られてしまった。
気まぐれな人間は電源を切った。
そして、静かな内海を背景に、木工用ボンドとピンセットを持ちかえながら、ボトルシップに取り組むことにした。

8/25/2024, 9:22:53 AM

やるせない気持ちでいっぱいです。
もう終わった、あるいはそろそろ夏休みが終わることで、学生たちは阿鼻叫喚。
下品な例え方ですが、◯んこを蹴られたあとの疼痛に苦しむことでしょう。
もう一ヶ月も経ってしまったという事実。
その痛みは、まさしく「お疲れ様」と投げかければよいでしょうか。

夏休みが終わってくれて、せいせいします。僕としては。
きっと、昼夜逆転している生活リズムを整えるべき日数もなく、夏休み期間中であればおふとんぬくぬくしていた時間に登校して授業して、ということを再開する。彼らなりに抱く、密かな怒り、悲しみ、やるせなさ、後悔。あるでしょう。

僕としてはそれよりも、夏休みが終わった直後である9月の自殺率が若干高めであるという統計データがある。
それに予告のような、予防措置が行えないことにやるせない気持ちを抱く……

8月が終わる一週間前。
どうもそんな香りがしてくるのです。

8/23/2024, 3:08:37 PM

お題は「海へ」である。

……ちょ、困るなあ。
一週間前に類似品が出たばかりじゃないか。
「夜の海」と、さして変わんねぇぞ。
というか、「夜の海」で書いたやつがそのまま「海へ」で書いちゃったしなー、とぐちぐち言っております。

もう何らかの比喩的な「海へ」にして逃げるか。
なんか思いついたら書くかもしれんし、書かないかもしれん。フラグはちゃんと立てておきましょう。
そのほうが海水浴客にまぎれて海へ逃げやすいですから。


8/23/2024, 4:14:59 AM

裏返しとひっくり返しは、そこまで違いが無いだろうと思えてきた。
後者のほうがくるんと物を返す動作が大げさというだけで、やっている事柄は同じだ。
一枚のカードと一つの砂時計も。
持ち上げて翻すという行為。
ただし、人がこれをやるためには意味や理由がいる。

とある意味を見つけるために世界各地を回っている者たちがいる。古びた建物……古代遺跡などを見つけ、探索している者――旅人である。

旅人は、今回も人が立ち入ったことのない砂漠の中に潜む地下遺跡を探し当てた。
砂にまみれているが!色合い的には緑が主役になっていて、レンガの溝に沿って植物のツルが伸びている。
遺跡の周辺に、オアシスなどのような水場もないというのに、どうして植物が生えているのか気になった。

遺跡の入口からツル性の生き生きとした緑色が溢れていることに気づいた。
彼はそのツルの出どころをたどるように、地下遺跡の奥へと進んでいった。

どのくらい降りていったというのだろう。
地下12階といったところで、地下階段への段は途切れ、平坦となる。階段の先は砂に埋れていた。
そこを折れ、逆U字型のアーチをくぐって広間のようなところに入った。地下室だろうか。
地下深くにあるというのに、意外と明るい。
天窓があるからだ。そこから太陽の燦々とした陽光が差し込む。

室内には、巨体な水槽が一台だけあった。
縦3メートル、横10メートル以上はあるおおきな水槽だった。だが、入っているのは水ではない。砂だ。
砂の色は青。だから、アクアリウムの水槽を見ている印象を受けたのだ。

水槽の蓋は厳重に閉じられていて、中の砂は触ることはできない。水槽の、ガラスの横壁に防がれた。

砂の水槽の下には、なにやら赤色のスイッチがある。
旅人は特に武器や防具など持っていなかったが、身の危険なるものは今までの経験上何もなかったことから、しゃがんでそのスイッチをパチンと押した。

すると、砂の水槽に変化があった。
立ち上がり、水槽の様子を見た。なにやら音がする。

スイッチが作動したことにより、水槽内の砂が砂時計のような具合で少量ずつ下に落ちていっているようなのである。
さらさらと、些細な音が川の流れのように、砂の水槽から消え去っていく。
砂の水位が数ミリずつなくなっていく。流砂のような感じで中央が凹んでいって、そして、その渦に埋没した遺跡のようなものが現れていった。

城のジオラマが、砂に埋もれていたようである。

「……これで、終わりか?」

しばらく旅人は砂の無くなった水槽を見ていたが、特に変化がなかったので、その場をあとにしようとした。
その時、階段に出た際に、この階が最下段だと思っていたが、左手を見ると階段に続きがあることに気づいた。

降りていく。地下14階、15階、16階へと。
すると、階段のまだ見ぬ地下からブワッと風が吹いてきた。向かい風だった。
砂が混じっていると思い、目元を覆いながら先へ進んだ。

しばらくして、旅人は風の流入経路を特定した。
今いるところはどうしてか夜空の一部だった。

最下段は塔の最上階の吹き抜けの一室。
東西南北それぞれに、雲と夕景と月と砂漠の景色が眺められた。
風が通る。砂漠側だった。

8/22/2024, 3:47:27 AM

鳥のようになりたい、と優等生は空を見上げた。

外は相変わらず暑いようだが、暦の上では処暑の前日。
お盆を過ぎて、これから徐々に涼しくなっていくという。嘘のようでホントの話。
夏休みが終わりを告げるように、今までの夏もいつかは終わりを告げていた。

夏休みが始まった日からずっと家にいる。
夏休みの宿題なんてとっくに終わっていて、受験生でもないのに毎日勉強机に座っている。

外が暑いからいけないのだ。
友達も誘ってこないからいけないのだ。
だから、私は外出しなくていい。

そんな都合の良いことを思いながら、勉強机に座っては、来年の受験期の前触れのような形容しがたい不安を感じ、防御する姿勢を取る。
体育座りのように両足を抱え、始終学タブの画面をペンで叩いている。

室温は24℃。
快適な温度のはずだが、変な姿勢のまま勉強机にずっと向かっていると、どうしてか体が慣れてきて、外気温のような、見えない暑さがまとわりついてくる。
肌に触れると、うっすらと汗。
冷や汗か、と指を這わせる。いや……汗だ。

優等生はガラスコップをつかんで、一気に麦茶を飲み干した。
優等生の喉のみがこくこくとゆっくり動き、コップの外側から垂れてきた水滴が、ダサい部屋着兼貧相な私服に落ちる。

空になったコップを机に置く。
コップの重装備の、水滴の鎧がみるみるうちに剥がれ、机の一部が水たまりになって、何らかの紙の冊子が水を吸う。即座に濡れの色に変わる。
優等生は、濡れたことにひょいと一瞥したが、特に対処はしなかった。変わらず学タブに夢中でいる。

空は夏の晴天を指していて、別に見上げた理由もない。
鳥になりたい、と思っていても、一匹も鳥はいない。
鳥の声も聞こえない。セミのうるさい鳴き声が、早くいなくなれとも思っていない。

優等生は胡乱げに空を見上げ、そして画面に目を戻した。
学タブには線画の鳥が小枝の上に止まっている。
見本はないが問題ない。
自由は見えないのと同じように、見えない鳥を描いている。美術部員であれば、さして問題のない事柄。

脳内物質を糧にペン先がしゅっと飛翔。
思いの外、翼の線が長くなったが特に書き直さなかった。

Next