裏返しとひっくり返しは、そこまで違いが無いだろうと思えてきた。
後者のほうがくるんと物を返す動作が大げさというだけで、やっている事柄は同じだ。
一枚のカードと一つの砂時計も。
持ち上げて翻すという行為。
ただし、人がこれをやるためには意味や理由がいる。
とある意味を見つけるために世界各地を回っている者たちがいる。古びた建物……古代遺跡などを見つけ、探索している者――旅人である。
旅人は、今回も人が立ち入ったことのない砂漠の中に潜む地下遺跡を探し当てた。
砂にまみれているが!色合い的には緑が主役になっていて、レンガの溝に沿って植物のツルが伸びている。
遺跡の周辺に、オアシスなどのような水場もないというのに、どうして植物が生えているのか気になった。
遺跡の入口からツル性の生き生きとした緑色が溢れていることに気づいた。
彼はそのツルの出どころをたどるように、地下遺跡の奥へと進んでいった。
どのくらい降りていったというのだろう。
地下12階といったところで、地下階段への段は途切れ、平坦となる。階段の先は砂に埋れていた。
そこを折れ、逆U字型のアーチをくぐって広間のようなところに入った。地下室だろうか。
地下深くにあるというのに、意外と明るい。
天窓があるからだ。そこから太陽の燦々とした陽光が差し込む。
室内には、巨体な水槽が一台だけあった。
縦3メートル、横10メートル以上はあるおおきな水槽だった。だが、入っているのは水ではない。砂だ。
砂の色は青。だから、アクアリウムの水槽を見ている印象を受けたのだ。
水槽の蓋は厳重に閉じられていて、中の砂は触ることはできない。水槽の、ガラスの横壁に防がれた。
砂の水槽の下には、なにやら赤色のスイッチがある。
旅人は特に武器や防具など持っていなかったが、身の危険なるものは今までの経験上何もなかったことから、しゃがんでそのスイッチをパチンと押した。
すると、砂の水槽に変化があった。
立ち上がり、水槽の様子を見た。なにやら音がする。
スイッチが作動したことにより、水槽内の砂が砂時計のような具合で少量ずつ下に落ちていっているようなのである。
さらさらと、些細な音が川の流れのように、砂の水槽から消え去っていく。
砂の水位が数ミリずつなくなっていく。流砂のような感じで中央が凹んでいって、そして、その渦に埋没した遺跡のようなものが現れていった。
城のジオラマが、砂に埋もれていたようである。
「……これで、終わりか?」
しばらく旅人は砂の無くなった水槽を見ていたが、特に変化がなかったので、その場をあとにしようとした。
その時、階段に出た際に、この階が最下段だと思っていたが、左手を見ると階段に続きがあることに気づいた。
降りていく。地下14階、15階、16階へと。
すると、階段のまだ見ぬ地下からブワッと風が吹いてきた。向かい風だった。
砂が混じっていると思い、目元を覆いながら先へ進んだ。
しばらくして、旅人は風の流入経路を特定した。
今いるところはどうしてか夜空の一部だった。
最下段は塔の最上階の吹き抜けの一室。
東西南北それぞれに、雲と夕景と月と砂漠の景色が眺められた。
風が通る。砂漠側だった。
8/23/2024, 4:14:59 AM