友情で脳を巡らせてみたら、太宰治の書いた『走れメロス』がヒットした。
メロスが激怒して、邪智暴虐たる王を許せん。
と直談判するも引っ捕らえられ、王殺し未遂でメロスは死刑になる。
ちょっと待ってほしい。
今死ぬのはいいけど、もうすぐ妹の結婚式があるんだ。
3日後の日没後までには戻るんで、と王に言って待ってもらうことにしたけど、王は嘲笑する。
「ふはは。貴様、死ぬために戻ってくるという戯言、誰が聞くんだ。そのまま逃げる気だろう」
と王は人の心が信じられないので、メロスは、
「じゃあ俺の代わりにセリヌンティウスを置いておきますんで」
と、メロスは全力疾走した話だ。
某フリーアナウンサーが、
「少しずつ沈んでゆく太陽の、十倍も速く走った。
とありますが、このときのスピードを計算したら、マッハ11。メロスは100mを0.02秒で走ります」
と、『走れメロス』の比喩の面白さについて語った動画を見かけたことがある。
なんだ、やればできるじゃんメロスって。
しかし、どの学年の時に習ったか忘れたが、いまいちしっくりこないストーリーだ。
メロスが本気を出せば済むとはいえ、普通に考えると、妹の結婚式がもうすぐそこまで近づいているのに、王を殺しに行くだろうか。
メロスがキレちゃったんだからしょうがない。
になると思うけど、普通に考えたら、妹の結婚式を終えてから、「さあ、殺しに行くぞ!」と我慢すればよかったのに。
友のセリヌンティウスじゃなくて、そのへんのホームレスみたいな、いのちの軽い人を置いておけば、あんなに苦悩して走らなくても。
みたいな、国語の教科書をなんだと思ってるんだこのクソガキは、くらいな事を思っていた。
でも、そんな物語、読んでて別に面白くない。
妹の結婚式前後で全力で走るから面白いんじゃないか。
メロスに論理的思考を求めるな。
メロスが我慢強くて、計画的に王殺しを決行したら、単なる殺人鬼になってしまう。
そう思って太宰治はおよそ現実から遠ざけた異質空間を作り、妹の結婚式直前なのに、メロスが激怒しちゃって死刑になっちゃう、という理不尽なストーリーをメロスに与えたのだろう。
このときのメロスとセリヌンティウスの関係は、読み終えれば固い絆で結ばれてたんだなってわかるけど、友を人質にするというメロスの思考回路は、読者にはよくわからない。
邪智暴虐たる王のように、このときの読者もメロスの気持ちがよくわからない。
なんでメロスは友を人質にさせたのか。
セリヌンティウスもセリヌンティウスだ。
「すべてはメロス様の仰せのままに」
と、歴戦の人質の姿勢のまま磔に掛けられる。
なんだコイツらである。なんでコイツら、人のことをそうやすやすと、信じられる?
メロスは走り、都市から離れていく。
往路はそこまで描写は少ない。結婚式に間に合えば良いから。
復路からが本番だ。走ったり立ち止まったり、野盗に襲われたりして、なんで自分がこんな災難を……、という苦悩が描かれる。
これは、
メロスが友のために走る
=自分が死刑になるために走る
からで、メロスだって死刑は不服だと納得していない。
別に帰らないで裏切ることはできるけど……、
でも! 走らなきゃ!
と、メロスはサイヤ人になって『走れメロス』になる。だから「少しずつ沈んでゆく太陽の、十倍も速く走った。」のである。
どうして一生懸命走るんだ。
死刑なんだから戻ったら死刑執行されちゃうんだぞ!
でも、セリヌンティウスが!
という忠誠心に似た絆か友情か。
どっちか知らんけど、ようやくこの辺になって読者にもメロスとセリヌンティウスのただならぬ友情が垣間見えるようになる。
本文にはまったく書かれていない、
「普通の説明ではおよそ見当もつかない二人の長く古い絆」が感じ取れるようになる。
途中「もう間に合わないよ!」と誰かに言われようと、
「うるさい! 間に合う間に合わないの問題じゃない! 人の命が掛かってるから走るんじゃない! だって、セリヌンティウスが信じてるから!」
という、人を信じる力で理不尽に打ち勝とうとする人間を描いたのだと思った。
友情って、裏切られる可能性があるけど裏切らなかったっていう、人には見えないものなんだろうね。
「俺の代わりにセリヌンティウス置いていきますんで」
じゃなく、
「俺の代わりにセリヌンティウスという命以上に大切なものを預けますから」
という、そういったメロスの真剣味が、読み進めるごとに分かる仕掛けになっている。
花咲いて。
花は咲くもんだ。
咲かなかった花があるなら、それは花と呼ぶんかいな。と思ってしまう今日のお題。
つまり難しいから適当に想像の花を咲き散らかして逃げたい。
雪月花、花鳥風月とか、花は引っ張りだこだなあと思う。
雪月花を初めて聞いたのはどこのタイミングだろう。
何巻かは忘れたが、初期のコナンのマンガで「雪月花」を題材にした話があった。
知ったのはたぶんその時だ。
怪盗キッドが盗むんだか盗まないんだか。
刑事に化けて、化けられた刑事を日テレのバッグに詰めて、詰めただけでなく、マスクを被らされて。
やけに手のこんだことしたのに、結局盗まないんかーい、と思ったかも。
その時は、「雪月花」という美しい名前の持つ花があるんだなあと思っていたが、実際は別々のテーマで、どれも美しいよね〜、それを写し取った3枚の絵も美しいよね〜という奴だった。
花を含む自然物は、詩情というものがあるようで、僕はいまいちこの日本語がよくわかってないで本を読んでいた。
詩情を調べると「詩的な趣」
詩的を調べると「詩の趣」
詩ってなんやねん、と調べると、
「心に感じたことを言葉で表したもの」と出てきた。
正直言って、わからん。
もう少し調べてみると、「物体から出る芳香剤のようなもの」と出てきた。なるほど。
例えば同じ花があったとして、陰気なところに咲く花と、家中で咲く花があったとする。
両者の花の匂いは同じだけど、見る人によって違ったニュアンスがある。
花単体は変わらないけど、花の周りを見たら違う。
オーラと言うべきか、空気が違うというべきか。
その機微を観察者たる人間が汲み取って、言語化あるいは心情化し、文字を残したり、芸術品や創作に取り組むようになる。
同じ花の種類でも、時期や場所、背丈や葉の色合い、影の作り方、太陽に向けるツルなど、周囲に及ぼす影響は違う。
どうやら視覚的作用から脳に及ぼすまでの一瞬の間に、「物体から出る芳香剤のようなもの」を言葉という俎上に乗せ、第三者へ旅させることで、可愛い子には旅をさせよ的な感じで、喚起させていると。
「花咲いて」と書くことで、花が咲いたあと、何があったのか。
想像のありかを示す道しるべ的な役目をしているのかなって。その花の匂いに流されて、物語は始まるのかもね、と思ったりもした。
もしもタイムマシンがあったなら、私は過去に行きたい人たちを四〜五人乗せて、タイムマシンの設計図を敷き詰めるだけ敷き詰めて、ずっと見送る側にいたい。
これは子供の頃思い描いていた夢だったが、まさか大人になって本当にタイムマシンを作ることができるとは……
「グッドラック」
私はタイムマシンを起動した。
胸に期待を躍らせるように、機体114514号は激しく振動し始めた。
危険な香りのする震え冷めやらぬなか、白いロケット型機体はさらに白くなり、光り輝いて現代を超越した。
光が消えるとともにマシンも消えた。
無事、タイムマシンが過去に行ったようだ。
マシンに積んだ「タイムマシンの設計図」を過去の誰かが読んだら、バタフライ・エフェクトなるものでこちらの技術が先進しているはず。
しかし、実験後の楽しみ兼結果発表的時間帯。
紅茶1杯をお供に据えて、何か変化がないか注目していた。実験から45分が経過した。そんなものは起きない。
手先がカタカタと震え狂う。この一杯は自己ではなく他者由来でなければならないのに。
「くっ、今回も失敗のようだ」
私は、過去へ飛んでいった者たちを角砂糖に見立て、冷めきった飴色の液体に何個も溶かした。
それを一気に飲み干した――甘い。
この甘ったるい甘さのように、私の開発した技術に穴がある……どこだ、どこに不備があると言うんだ?
わからない。が、実験とは試行錯誤の連続だ。
甘いを通り過ぎて現代の苦々しい味に、もう一度誓った。私はタイムマシンを開発する稀代の偉大なる発明者の名に連なるはずだ。そうだ。ニコラ・テスラのような偉大なる科学者に……!
「おいおい、相変わらず辛気臭い顔をしてるじゃないか」
休憩室にてヤニを吸っているとき、同僚のイーロン37世が、陽気な顔をして声をかけてきた。
「ご先祖が見たら叱られるぞ。すごいしかめっ面で。昔ルパン並みの弾除けを披露したってのに」
「うるさい、それはファーストネームがたまたま同じだっただけの、僕ではない別の人骨だ。そっちは青い鳥を解雇したくせに、最近になってまたロゴに戻したそうじゃないか」
私の皮肉はどこへという感じで彼には通じない。
「はっはっは、それ、何世代前の話だ? 著作権が切れてフリー素材化しただろう。それで文句を言っていた連中とその子孫は、みんな死んでるんだ。関係ないだろ? それでトランプ」
イーロンがまた陽気な声で言う。
「今回のビジネス、素晴らしいと思うよ」
「ふん。私は別にビジネスだとは思ってない」
「じゃあなんだって言うんだ。『タイムマシンビジネス』?」
「社会貢献だ」
私は狭い喫煙所から出た。今の時代、健康を損ねる毒の煙を吸うやつなど、世界のどこを探しても私くらいしかいない。ヘビースモーカーという言葉はもはや言葉の化石である。
気配がする。私の後を追いかけ、セリフも追いかけ。
「社会貢献、皮肉なものだな。お前の開発したタイムマシンを『安楽死カプセル』に利用するだなんて。アイデア聞いたときは、こりゃたまげたと思ったよ。悪魔だってびっくりさ」
「あのときはどうかしていた。実験続きで、ニコチン切れだった。早朝家に帰ろうと思った矢先、人身事故に巻き込まれて朝の3時間がパーだ。その時に思ったものを、政府に打診したまでだ」
「『もしタイムマシンを開発したら、乗組員は自殺志願者を乗せましょう』……それを採用しちまう政府も政府だ。それほどまでに処分に困っていた、ということなのか」
ニート、無職、引きこもり。
先行き不透明な小中学生不登校。
SNSでもただ社会の恨みつらみを文章にするだけで、有機的な行動はしない。
そのような居場所のない者たちに、シという名の救済を、シという名の経済ビジネスを。
安楽死価格3700円のところを、人生やり直しサービス込みで35000円って囁けば、藁にも縋る思いになる。
死ぬ前に人生をやり直したいという人はゴマンといる。その者たちをタイムマシンに押し込んで、過去に葬り去ろうとする。なんという夢のある慈善事業だ。
イーロンはSNSに居座る連中を蔑みの口調で語る。
もうすぐ実験室だというのに、全然途切れない。
「……いつまでついてくる。こちとら忙しくてね」
「ああ失礼」
イーロンはスマホ画面を見せながら、
「君にインタビューしたいって言ってる物好きがこんなにもいるらしい。是非とも君本人にっていうが、君は断るだろう」
「そうだな、会見室が喫煙OKだったら一考の余地があるが、無理だろうな」
「そこでだ、君のしがない友人としてSNS会見の場を開こうと思ってる。場所は実験室兼タイムマシン発着場。
オブザーバーとして私も参加するつもりだが、事前情報くらいは、と思ってね」
例えばどんな質問があるんだ、と聞いた。
「どうしてタイムマシンを作ろうと思ったか? とかだ。社会貢献は、建前だろ」
「ふん、ならこう言えばいいのか。例えば、大量のニート(のび太)を生贄に捧げて、一体の天才(ドラえもん)を降臨させるため――といえば、インパクトはあるだろう。会見でのインプレッション数は、軽く億は稼げるか?」
「おいおい、ブラックな本音は慎んでくれよ」
「冗談、冗談だよ」
イーロンはそれでも気が気じゃないと慌てる。
「ったく、少しは炎上リスクというものを考えてくれよ。胃に悪い」
「口は慎むつもりさ。会見中にタイムマシンに乗って逃げるなんていう失態、できればしたくないからね」
今一番欲しいもの?
ごめんね。ないものねだりはしない性格なんだ。
こういったものは、結論ひと言で言い表せられるものなんてこの世には存在しないだろうなって思ったりする。
お金が欲しいと思っても、有効期限切れのお金は欲しくない。
お金が欲しい=偽札を製造したいわけでもない。
一番欲しいものは然るべき条件がある。
なぜお金が欲しいかといえば、それはお金から代替可能なものがいっぱいあって、という、要するに一番が決められない人が姑息な考えのもとに言っている。
とりあえず保留しながら選択肢を絞ってしまうようなもの。お金で買えないものは排除してしまって、最終的に後悔するのかも。
まあ、人間なんて、そんなもんだ。
欲しいものはいっぱいあるけど、その中の一番なんて、とてもじゃないが決められない。そんなの、欲しいものじゃない。
お金以外のものを欲しがったって、それは社会で生産された安全基準をクリアした製品みたいなものだ。
安全をすこぶる願ったものが来ても、それを疑う気持ちは消えない。
時と場合によって、一番欲しいものは変わる。
というのもありそう。
人間の脳は優柔不断で、常に揺れていて、それを楽しんでいるつもりでもある。
現実に取り組み、時には逃避して。
眠って、食べて起きて、眠って。
その時々で一番は違う。
もちろん欲しいものリストもたくさん持ってるだろうから、場面によって一番欲しいは違う。
ちょー眠いときは睡眠だし。
すごくお腹が空いたときは食べ物だし。
のどが渇いたときは水分だし。
いじめられて気持ちがしょぼんしているときは孤独だし。
洗われていないお皿を見たときは食洗機だし。
お金欲しいときは結局お金だけど、正直誰かの奢りの食事ほどうまいものはないし。
だから、このような問いの回答は永遠に保留して、少なくとも1000回くらいは問いかけてもらって、一番を考えながら無為に過ごせるという、一番欲しいものを何度も手に入れる遊びをしたい。
だからごめんね。ないものねだりはしない性格なんだ。
私の名前は「22時17分」。時刻だ!
なんでこの時刻なのかと疑問に思うかもしれないが、大変お恥ずかしいことに、深い理由はない。
ただ初めてこのアプリで投稿したあと、他の人の投稿をだらりと見ていたら、
「あっ、みんな名前設定されとる。名前設定できるんや」と思って、初心者にはとてもやさしくないアプリの設定を漁り、漁り、漁り。
特に説明書のない電化製品と立ち向かう不毛なやりとりをした終了時刻がこれだったというわけだ。
つまらない理由だと思われたら光栄だ。
だいたい、名前に深い意味をつけるほど暇を持て余す者でもない。
いつからは知らんが、気づいたのは一代前のスマホ。これはスマホで打っている(アプリだから当たり前だ)が、「いま」とフリックすると「今の時刻」がサジェストされる。
10時41分、10時45分、10時56分……全部今をサジェストされた者たち、いや者たちだった。
いい時代になったものだ。時間が間接的に実感できる。
キーボードを数字版にしてから、数字と漢字を使って、ということをしなくても、一発で今の時刻が引き当てられる。ソシャゲガチャも今の時代こうしていかなくちゃ。なぜやらないんだ!
まあ、「いま」というサジェストが、スマホでは何のシチュエーションを想定されたものなのかは知らないが、備えあれば憂いなし、ということで備え付けられた代物だろう。
スマホが大容量になったことで無駄なデータを載せられるようになったのはいいものだ。
特に夜に更新するわけでもない。
僕はもう、「22時17分」に深い愛情がないから、上書きしてもいいか、ということを思ったり思わなかったりした。
でも、名前を変えるのは面倒だから、半年くらいはこのままだろう。
そういえばこのアプリ以外もある創作系サイトがあるが、このときのペンネーム? 投稿名? も適当だ。
Aを打ってサジェストされた英単語でいっか。〇〇で。
あー、来月誕生日だからそれに絡める名前にすっか〜。✕✕で。ネーミングセンスなんてそんなものである。
小説内での登場人物の名前も、創作名前クリエイターサイトみたいな、ルーレット回したら一瞬で決まるやつを使っている。
結局僕は、どうでもいいやと思っているものは手抜き工事をしたいらしい。
次の手抜き名前は、一体何をするつもりなのか。
読めない未来ほど読めないものはない。
名前はまだない猫のように手を伸ばし、遊ぶ。