視線の先にはかげろうが立っている。
外はとても暑いことを端的に示している。
極暑、とかっこよく言ってみたが、言葉をかっこよくしても天候から夏が消えない。
つまり、文章を作るモチベーションが生まれてこなかった。仕方のないことだ、この言葉からは諦めよう。
今日は休日だから、外に出かけてやろうと思ったが、こんなに暑いんだからおうちでぬくぬくすることに変更した。
画期的かつ最新鋭の予定変更、とかっこよく言ってみたが、以下略。
部屋の中を適当に目を散策してみた。
視線の先には机の上。
薄べったい黄色が特徴のカロリーメイトが3箱ある。
ただ遊びかけの積み木のように積まれていた。
崩れただんだん畑のようになっている。
階段積みをして、2段目はかろうじて、3段目は普通に失敗して斜めになっている、と言えばいいだろう。
3箱ともチョコレート味となっている。
定番といえば定番。美味しくて飽きない。
平日の朝、会社ビルのカフェスペースで朝食を取るのが習慣である。
だが最近になってコンビニでカロリーメイトを買うのはお金がもったいないのではないかと思えてきた。
コンビニだとひと箱240円、スーパーなら210円。
90円くらいの節約。
しょぼいが、ポイ活で一日数円を血まなこになってかき集めている奴よりまあまあましな気がする。
だからさっきスーパーに行ってお買い物をしてきた。
ついでにポテチも買ってきた。
道のりは険しい。外は炎天下である。
違う。めっちゃ蒸し暑いだけで日射は本気を出してこなかった。
一文目でかげろうという言葉を使ったが、正直かげろうは立ってなかった。
見なかっただけかもしれない。
けれども暑いという結果だけが脳内に残ったのは事実。
行ったり来たりするだけの行程。
肌や汗ばむ夏服などにダメージを受けた。
机の上で階段状になっているカロリーメイトの積み木は、買った直後、冷房をつけっぱなしにした自室に戻ってきて、エコバッグから取り出したスピードの痕跡だ。
ずさあ、と放り捨てた結果である。
きれいに整える時間も惜しく、この通りおふとんにてぬくぬくしているのである。
そういえば学生たちは今日から夏休みだそうです。僕たちも欲しいな、追加で。視線の先には過ぎ去った夏休み。
私だけ、てんびんに載せられている気がした。
二つあるてんびん皿は釣り合っている。
皿の一つに私が、もう一つの皿に何か黒い箱のようなものが載せられている。
皿の大きさは意外と大きくて、丸い緑の山手線くらいはある。
私側の皿の上には、都会ではあって当然と言えるものばかりが載っていた。
部屋、寝室、廊下、玄関、机、タンス、おふとん、水道、洗面所、冷蔵庫、ガス、ティッシュ、トイレ。
それらを包含している建物、建物、建物……など、生活には至って困らない。
一方、対面の皿には一つだけしか置かれていない。
こちらと同じ大きさの皿なのに、置かれているのは黒い箱ただ一つ。皿の中央にひと箱だけ。
それ以外にないことは、特注の望遠鏡を覗いた私を信じてほしい。
望遠鏡を覗いたきっかけ? 気になった。それだけだ。
対面の皿の黒い箱を望遠鏡で覗くたびにこう思う。
一体あの中には何が入っているのだろう。
見てみたい。
◯カキンのYoutube動画のように、中を開封したい。
実はただの空き箱かもしれない。
おもかる石のようなもので、思ったより軽いのかもしれない。
蓋を開けてみなければわからない。そういったもの。
しかし、だめだと自分を制する。
なぜなら時計の針は、そろそろ仕事を始めなければならない時間を指しているからだ。そろそろ現実を始めなければならない。
好都合なことに、この世界はてんびんで出来ているからか、仕事は全部リモワとなっている。黙って皿の上に乗っとけという世界の意思を感じる。
つまり、嫌な通勤電車に乗らなくていいのだ。
ずっとここにいたい。おっと。
そんなことを思っていたら、もぞっとおふとんか動いた。なんてことはない。正体は白いもふもふ。130cmアザラシでお馴染みのし◯たんである。
どうやら寝ているときに毎日し◯たんと会話していたら想いが伝わったらしく、ぬいぐるみからつくも神的な要素を持つペットに進化したのである。
最初の頃は無言でおうちを徘徊するルンバの癒しバージョンだったのだが、徐々にお風呂に入るようになり、最近はおふとんを畳むまでになった。
さらには夢にまで出張ってきてくれて、疲れた私をやさしく撫で撫でしてくれて、もうたまらないくらいの毎夜の楽しみである。
そうやって冷蔵庫の下の方を開けて箱型のアイスクリームを取り出し、なんか、カッコ良い名前の道具で丸くすくい取って皿に乗っけた。
し◯たんは、いつも自分の分だけでなく私の分もよそってくれる。
私の分を渡したあと、三段のアイスクリームに取り組んでいる。上から水色、薄桃、黄色である。
あんなに食べられるのかな?
まあいいかと食べることにした。
……ああそうだ、あの道具はディッシャーと言うんだった。
そうやってリモワをしながら、溶けゆくアイスとともに時間が過ぎていくと、玄関のチャイムが鳴った。
PCゲームに夢中であるし◯たんを邪魔しないように脇を通り、荷物を受け取る。中古本と10日間分の備蓄品だった。
中古本は置いといて、備蓄品は時々てんびんが揺れて危ないから、買っておきたいと常日頃思っていたのだ。
私の記憶にないから、おそらくし◯たんがネットショッピングで注文してくれたのだろう。ありがたい限りだ。
受領印を押したあと、「ありっした〜」と宅配便の人が言い、私は玄関のドアを閉めようとした。
「あっ、ちなみになんすけど、あの荷物届けられるっすよ」
「えっ」
突然のことで私は戸惑った。
「あれって、何の……」
そこまで言って、私は察した。
「もしかして、黒い箱、ですか?」
宅配便の人は頷いた。私は少し逡巡したあと、
「いや大丈夫です」と断った。
宅配便の人は去っていった。
荷物を整理したあと、私は望遠鏡でもう一度あの黒い箱を覗き込んだ。あの黒い箱、いったい誰の荷物なんだろう……
遠い日の記憶。それは僕が学生だった頃。
テストというものが常識として認識されていた頃。
80点以上なら何か親に怒られなくて済み、それ以下の場合はテレビゲームを封印される措置をとられた頃。
小中学校では、だから50点以下とか取ったことがない。
英単語として「Study」がごく当たり前に登場していた頃でもある。今は、スタディとかのカタカナがしっくりくるなって思ったりする。
高校生の序盤にiPhone3Gという、今で言うところのシーラカンスの化石みたいなものが初めて売られ、そこから連綿とスマホが流通するようになった。
あれは一種の技術革新で、起爆装置だった。
宇宙のビッグバンのようなスピードで広がり、今では指の腹を画面上で滑らせればすべてが行われるようになった。
デジタル化は進み、電化製品ばかりが人間社会の八割くらいは作っていると思う。この時点で人間の人口より機械のほうが軽く数を超える。
この割合が九割になる頃にはAIが人間のサポートをするようになるだろう。
カスタマーサポートは、まだまだ人間がいて、人間が人間をサポートしている。
そこが一家に一台iPhoneのように、一家に一台スパコンができるようになると、カスタマーサポートは要らなくなり、昨今でちらほらと話題になる「カスハラ」などというハラスメントは完全に消失する。
まあ、その置き換えがうまくいかないからハラスメントが起きている、ということになる。
一家に一台スパコンになっている頃。おそらく僕は100歳になってボケているな。
スパコンが先に増えるか、人間が先に少子化で数を減らすか。それはあなたの想像次第。これも違った意味の「遠い日の記憶」……
空を見上げて心に浮かんだこと。
戻り梅雨だから、くもり空で日差しを遮ってる感じがする。
すずしい感じ。蒸し暑い感じ。
でもゲリラ的にゲリラ豪雨がきて、瞬間的最大雨量を軽やかに更新したら雲の向こう側へと去っていく。
ポケティみたいな奴だ。
ポケットティッシュ……、配ってるやつの掛け声的な。
受け取ったら忘れる。あいつらってほんとに一日か二日でいなくなると思う。
しかし、忘れた頃にまた駅前広場に復活して、ポケティを配っている。
配る人変わってるんだろうか。興味なさすぎて困る。
今日のお題は別にどうでもいいやなので、軽く書いている。
見返してみたが、文脈がおかしい。文脈が困っている。
読めない。読めない……?
そうこれが、新たな梅雨の新常識なのだ!
ということにしたい。
しかし、……しろくて、でかい。
ああだめだ。
白いものを見ると、どうしてもおうちでお留守番してる130センチしろ◯んのことを思い出してしまう。
僕の上にしろ◯んを乗っけます。
上下にぽよぽよ揺らします。もふもふさせます。
あー、今日も疲れてますね〜。僕〜、ん〜。
……ZZZ。
いつの間にか朝になってます。
「終わりにしよう」
物語の主人公はそう言って、さらに剣を握る力を込めた。
かれこれ数時間は戦っている。
未来では英雄と呼び叫んでいるかも知れないが、この時は一介の人間でしかない。
無尽蔵な体力など到底なく、剣の技術も質も貧弱だ。
目の前の好敵手は火を吐くレッドドラゴンである。
一対の大きな翼か厄介で、空中に飛び上がって一方的なブレスを吐く。それを、先ほどの策で片翼を切り裂いてやったのだ。
片方の翼で飛ぶドラゴン。
厄介ではあるが、その高度はみるみるうちに低くなり、やがて地上に降りてきた。背中にたたまれる翼。痛みと気力のボロボロの立ち姿。
それは、こちらとしても同じだ。
「お前もつらいだろうから、な!」
剣士は地を蹴り、飛翔する。
大口を開いて頭をつき出そうとしていた――刹那。
渾身の一撃を振り回した剣の攻撃が、その龍の喉笛を掻っ切ったのである。