「終わりにしよう」
物語の主人公はそう言って、さらに剣を握る力を込めた。
かれこれ数時間は戦っている。
未来では英雄と呼び叫んでいるかも知れないが、この時は一介の人間でしかない。
無尽蔵な体力など到底なく、剣の技術も質も貧弱だ。
目の前の好敵手は火を吐くレッドドラゴンである。
一対の大きな翼か厄介で、空中に飛び上がって一方的なブレスを吐く。それを、先ほどの策で片翼を切り裂いてやったのだ。
片方の翼で飛ぶドラゴン。
厄介ではあるが、その高度はみるみるうちに低くなり、やがて地上に降りてきた。背中にたたまれる翼。痛みと気力のボロボロの立ち姿。
それは、こちらとしても同じだ。
「お前もつらいだろうから、な!」
剣士は地を蹴り、飛翔する。
大口を開いて頭をつき出そうとしていた――刹那。
渾身の一撃を振り回した剣の攻撃が、その龍の喉笛を掻っ切ったのである。
7/16/2024, 3:25:41 AM