あん

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9/2/2023, 3:06:56 PM

もう音が鈍くなってきた
唯一の目もぼやけてもう、光が見えない
せめて、せめて何かしたかった。
君の為に。 君たちの為に。
最期まで、先生として。
心の灯火が、命の光が、消える前に。
ならこの子達を囲ってしまえば、助かるんじゃないか。
せめて、この子達だけでも。

「先生、大丈夫だよね、先生、?」
怯えた目で、自分の瞳を覗き込む君が居た。
「うん、大丈夫だよ。だから、」だから。
今は、静かに眠りな。
君は瞳を手で覆って仕舞えばあっという間に深く眠りについた。
「大丈夫、大丈夫だよ。先生が守るからね。」
例え片腕が無くなろうとも。
例え片目が見えなくなろうとも。
君達に何かを失わせる方が僕としては怖かったんだ。
だから最期のわがままだよ。
「長生きするんだよ。君達は僕の自慢の生徒なんだから。」
色んな人に出会って、色んなものに触れて。
沢山の幸せを受け取って必ず誰かに看取られる事。
僕のように1人で死ぬような事にはならない事。
後悔をしないように動けるうちに動く勇気をもって動く事。 絶対に、何よりも命を優先すること。
ホントのほんとに最期の先生との約束だよ。

「馬鹿だよなぁ〜先生。」
「ホント。それ以外何も言えないくらい馬鹿。」
「でもまあ、この人はそーゆー人だから。」
「それはそーだけどさぁ、それで片付けれるくらい、簡単な人ではないよな。」
「まあね。 ほら、早く行こう。今日は噂のアイツが退院するらしいじゃん。」
「あ!!!そっか!!!昨日寝れんかったくらいなのに忘れてたなんでだろ、先生今日だ!!!」
「とりあえず消化に良さそうな煎餅持ってってやろう。」
「いやそれ絶対逆。なんなら硬いやん歯痛いやん。」
「それはそう。早く行こう。」
「ん。行こっか!」

先生は馬鹿だから、自慢の生徒である俺が教えてあげるけど、あの時俺眠りきって無かったよ。ちゃんと約束も守るよ。だから先生も、その隣にちゃんと立っててね。

9/1/2023, 12:46:09 PM

指がどうしても震えてしまった
開けないLINE 充電は23% すぐ出ると思って上着を着たままの自分。
夢だと思いたかった。
君が、知らない誰かと腕を組んで君の家へ入っていくところを見てしまったあの日は、生きた心地がしなかった。
現実を信じたくないから信じない。
君を信じたいから信じる。
けれどその信じる心は、必ずしも君を肯定するまでには至らなかった。

君の実家へ、顔を出しに行ったよ。
君には「別れよう。」とだけ伝えて。
君の御家族には婚約を破棄させて欲しい。と伝えた。
理由を聞かれたから、君が嘘をつけないように写真もちゃんと見せておいた。
君は狼狽えて「ほんの気の迷いだった。許して欲しい。」なんて言ったけれど、僕がそんな事を許すような人間じゃないことくらい、分かってたはずだよね。
もう、遅いんだよ。

8/30/2023, 1:21:29 PM

ふわっ
思わず振り向いてしまった。
いつの日かに出会ったあの夏に恋をした貴方の香水の香りが香ったから。
季節は違えどキンモクセイの香りが漂う貴方の隣は心地が良かった。

「その香り、いいすね。俺好きです。」
特に他意はなく発した言葉だった。
「あ!これ!? これね〜彼氏がくれたんだぁ〜!」
分かりきっていたことだった。
彼氏が居たことも、その彼氏が俺の親友だった事も。
「やっぱ、あいつセンス良いですよね。流石だ。」
これもまた本音だった。
「うんうん! いいよね、液体の香水じゃなくて練り香水だから持ち歩きも出来るし、荷物にもならないし!」
花の香りを漂わせながら華のように笑う人だった。
「女の子の事、ちゃんとわかってる感じしますよね。」
「ね〜!」

記憶にあるのはやっぱりこの会話だけで、貴方を忘れる為に付き合った彼女がつけていた香水は、少し甘ったるく季節を感じさせるような香りだった。
結局好きにはなれなくて、別れてしまったが、それでも貴方を忘れることは出来なかった。
今月末、貴方は親友のアイツと式を挙げますね。
俺はアイツの為にマイクを握って貴方とアイツの思い出を語ろうと思います。
涙が流れて来てもそれは祝福と長年の恋がようやく枯れる頃ですから、上手く流す事が出来ると思います。
どうか、幸せになってくださいね。

おめでとう。 サヨウナラ、俺の純恋。

8/29/2023, 12:48:33 AM

何でもない日だった。
チャイムが鳴って。突然の君の訪問。
何となくわかっていた。きっと別れ話だろう。
案の定別れ話から始まって、結果別れることになった。
君が私物を取りに来る日が来週頃になるって聞いたから、それまでに君の私物を箱に詰めておこうと思った。

思っていたより君の物が多くて、少し寂しさを感じたけれど、2人で決めた事だ。特に後悔はない。
そんなことを考えていた時。
君に貰った手紙が、一通出てきた。
付き合って3回目の誕生日を迎えた俺にくれた手紙だった。
「君とまた誕生日を迎えられて幸せ」という事。
「来年もまたよろしくね。」との事。
あぁ俺は。君と別れたくないんだな。
あっさり承諾をしたけれど、不思議と涙は止まらなくて
別れ話なんかせずに、もう一度愛を叫べばよかった。

再びチャイムが鳴る。 ピアスを落として行ったらしい。
今度こそちゃんと伝えるよ。 今まで黙っててごめん。

「俺、君と別れたくないよ。」

8/27/2023, 2:44:27 PM

台風が上空に居る中、1人家を出ていった君を僕は
どんな感情で待つのが正解だろうか。
浮気を疑われたとか、浮気をされたとか、お金にだらしないとか、そんな事が理由で喧嘩をしたんじゃない。
ただ、いつもの、普段から喋ってる僕の口癖が、気に食わなかったんだろう。

「いいよ。」
君が良いならそれでいいよ。
君が好きだと言うのなら、それがいいよ。
お米じゃなくて、たまには魚でいいよ。
僕が調理するから、君は座ってていいよ。

そう言うと彼女はいつも、
「私がやりたいからいいの。」と言った。
だがしかし、ふとした僕の口癖が、遂に彼女を傷つけたらしい。

「君が嫌なら、もういいよ。」

彼女の顔から感情が消え、表情が消えた。
諦めたような、酷く傷ついたような顔はせずに、ただ、無感情だった。
そこからの展開はとても早くて、台風だと言うのに傘なんか持たず、よりによってサンダルで駆け出して行った。
どうせ君は、いつものコンビニで迎えを雨の中佇みながら待っているのだろうに。

「ごめんね。僕が、悪かったよ。」
「私貴方に折れて欲しいわけじゃないの。けど、 」
「けど、?」
「貴方と対等に在りたかった。」
少し拍子抜けをしてしまった。僕は先程の言葉で彼女が傷ついてるものだと感じていたからだ。
「さっきの、嫌ならもういいよ、に怒ってるわけじゃないの、?」
すると今度は彼女が鳩が豆鉄砲を食らったような顔を一瞬して笑いだしたのだ。ひとしきり笑った後ようやく目が合って、彼女は微笑んだ。
「そうじゃないの、私貴方の事部下だとか下僕だとか、そんなふうに周りから見えてそうで嫌だったのよ。貴方の一つ一つの行動にはちゃんと愛があったし私もそれを理解してた。 けどね、知らない人からすればそれは恋人と言うより主人と召使いのような関係なのよ。 それがどうしても、嫌なの。今でも。」
君の心境を聞けた時、僕はどれだけ嬉しかったか、君に尽くしてばかりは負担をかける事も、新しく覚えておこう。
「じゃあこれからは、一緒にやろうって誘うよ。」
すると彼女は雨を晴らせるかのような笑顔で笑った。
「うん。絶対ね、約束だよ。」
仲直りをして、彼女の為にちょうど切らしていた絆創膏と傘を買って、君の靴擦れを帰るまでにどうにかしようと思うよ。
やっぱりサンダルは片付けておくべきだったね。


そして僕らは、雨の中ひとつの傘を買って帰路についた。

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