ふわっ
思わず振り向いてしまった。
いつの日かに出会ったあの夏に恋をした貴方の香水の香りが香ったから。
季節は違えどキンモクセイの香りが漂う貴方の隣は心地が良かった。
「その香り、いいすね。俺好きです。」
特に他意はなく発した言葉だった。
「あ!これ!? これね〜彼氏がくれたんだぁ〜!」
分かりきっていたことだった。
彼氏が居たことも、その彼氏が俺の親友だった事も。
「やっぱ、あいつセンス良いですよね。流石だ。」
これもまた本音だった。
「うんうん! いいよね、液体の香水じゃなくて練り香水だから持ち歩きも出来るし、荷物にもならないし!」
花の香りを漂わせながら華のように笑う人だった。
「女の子の事、ちゃんとわかってる感じしますよね。」
「ね〜!」
記憶にあるのはやっぱりこの会話だけで、貴方を忘れる為に付き合った彼女がつけていた香水は、少し甘ったるく季節を感じさせるような香りだった。
結局好きにはなれなくて、別れてしまったが、それでも貴方を忘れることは出来なかった。
今月末、貴方は親友のアイツと式を挙げますね。
俺はアイツの為にマイクを握って貴方とアイツの思い出を語ろうと思います。
涙が流れて来てもそれは祝福と長年の恋がようやく枯れる頃ですから、上手く流す事が出来ると思います。
どうか、幸せになってくださいね。
おめでとう。 サヨウナラ、俺の純恋。
8/30/2023, 1:21:29 PM