あん

Open App
8/17/2023, 12:32:45 PM

いつの日か君がくれたネックレスをつけて、
私は君の部屋へ来た。
部屋の持ち主はもう居ないのに、そのうち帰ってくるような無造作に置かれた洋服たちは、少しホコリっぽくなっていた。

「もう、帰ってこないよ。」
誰も居ない。 誰も、もう帰ってこないのだ。
無機物しか居ないこの部屋で、誰にも届かない言葉を私は思わず漏らしてしまった。

「、、、片付けよ、」
彼の家族から部屋の片付けは貴方にやって欲しい。 そう言われてしまえば私はもう断れないのだ。
きっとそれを知っていながら、思い出に浸りながら心を整理して欲しいと、そう思ったんだろう。

「、、あれ、?」
私の名前の書いてある箱が、誰にも見つけられないような奥深くに眠っていた。
開けてみればそこは私が彼にあげた何気ないものだった。
買い物リスト、手紙、メモ、私があげて、もう空っぽになったと言っていた香水や、ハンドクリーム。
そして、私の家の合鍵だった。
私があげて穴が空いてしまった服も入っていて思わず吹き出してしまった。
「君、どんだけ私の事好きなの、笑」

ポタっ

誰かの涙が落ちたらしい。
心当たりは無いけれど、きっと私なんだろう。

ポタポタっ

「うっ、」
嗚咽混じりのとても貧相な泣き声が、もう誰の所有物でも無い部屋に響いた。

「箱、しまんない、よ、笑」
どうせなら最後くらい。嫌って欲しかった。
私の記憶の中で、いつまでも捨てられないもの、
いつまでも思い出したくないもの。
君との思い出はきっと、この箱と同じように閉まりきらないんだろうね。

8/16/2023, 3:09:41 PM

自分の人生に自信を持って。
誇らしさを持って。
迎え立つ勇気を持って。
どうか、負けないで。

「母さん、俺もうどっかの主人公にはなれねぇんだよ。」

痛む膝を擦りながら、泣くことしか出来なかった。



17の春。俺は前十字靭帯を損傷した。 少し前から傷んでいた膝を蔑ろにして、練習試合で決めた最後のゴール。
それは俺の試合を終わらせた瞬間でもあった。
周りはみんなすごい速度で成長していく。
俺は、キャプテンだったはずなのに、やってる事はマネージャーと一緒だった。

「もう、無理なんかな。」
ふと病院のリハビリ室で零した1つの弱音。
でもそれは親友である副キャプテンのアイツの心に錆びた釘のように深く刺さったんだろう。
初めての喧嘩、相手は重度の怪我をおった俺で。
お前は暫く自宅謹慎になったらしいな。笑
病院での面会も俺の許可が降りたところで病院側が許可を通さなかったから、お前はいつも窓から俺に手を振った。 春がすぎて、夏が来ても。それは変わらなかった。
もう自分で松葉杖で行けるってのにアイツは
「俺が荷物持つ。」って言って聞かない。
お前の家は真反対だろうが。馬鹿がよ。

あっという間に10ヶ月が経って。 普通に動けるようになっても。俺はボールを手に取るのが怖かった。
また、同じように怪我をすれば。それはいよいよ俺のバスケ人生の終わりを意味する。
もう、壊せない。
爆弾を抱えたまま、俺は体育館の前でただ佇むしかなかったんだ。
「入れよ。」
俺と喧嘩をしたアイツだった。
「謹慎野郎が何言ってんだよ、笑」
上手く誤魔化せただろうか。 もしもの世界をただ恐れて踏み出せていない俺を。
「いーから。入れ。」
背中を押されて、思わず。足が階段に付いてしまった。
そうだ。もう後戻りは出来ないんだ。 魅了されてしまった以上。もう。進むしかない。
「俺さ、もう膝壊せねぇんだわ。」
「分かってる。」
「いや分かってねぇよ。」
「分かってるよ。 ずっとお前の隣に居たのは俺だったろ。」
「いや、それでもだ。 手加減するなよ。俺は成長する。今からだって、何年後までだって、俺のバスケが止まろうと。 俺は死ぬ訳じゃねぇ。」
「、、、おう。」
「ようやく分かったんだ、俺にはバスケしか無いと思ってた。けどバスケが無くなった俺は、死なずに生きてたから。あくまで生きていくための縋る手段だったんだろーなって。」
「おう。」
「だから、1on1。やろうぜ。抜いてやるよ。」
「は。やってみろ。キャプテン。」



「やべぇな。さみぃわ。」
「んなこた誰でも分かんだよ。」
「いや、うん。でもあったけぇわ。」
「ついにイカれたか。」
「違ぇって! 俺さ、まさか冬までやると思ってなかった。ウィンターカップまでやるくらいガチとは。」
「、、、まあそれは俺もそう。」
「だよな!?!? はーーー高2の俺に見せてやりてぇわ。」
「おーおーあの頃の弱虫坊っちゃんな。」
「弱虫言うな。」
「坊ちゃんはいいんかよ。笑」
「、、、、こんな広い世界があって。化け物みたいなやつもたくさんいて。 身長もバカでけぇしジャンプ力もパワー力もえぐいけど。 でも俺は、あの時止まんなくて良かったって思う。 あの時終わんなくて、終わらせなくて良かったって心底思う。」
「おう、」
「ありがとな。 おかげで俺まだ思いっきりバスケ出来る。」
「ん。 まあふくらはぎに噛み付いてやるくらいには頑張ろうな。」
「グロ笑」
「さあ行くぞ。キャプテン。」
「おう。」

任せとけ。大黒柱。

8/16/2023, 3:48:37 AM

独りで夜を泳ぐ者がいた。
その者はまるで悪魔のようで、はたまた天使のように微笑む時がある。
いわゆる『ワケあり』って奴なんだろう。
「君、帰らないの?」
出会って1週間程たったある日、ずっと聞いてみたかったことを聞いてみた。
『帰りたいけれど、もう帰れないのよ。』
彼女はそう言って困った顔で笑って見せた。
「、、、やっぱり君は天使だったのかい、?」
彼女はどうやら気づかれているとは分かっていなかったようで驚いた様子を見せた。
『どうして、貴方が知っているの、?』
「君は、羽の色が真っ黒じゃないんだ、肌に近い部分にかけて白くなっているんだよ。」
自分でも気づいてなかったようでビックリしていた。
『そう、、、私ね、天使だったの、だけど禁忌を犯してしまって。』
「禁忌、、、?」
彼女と出会ったのは丁度病院から退院したその日だった。 線路を渡っていて、車が突っ込んできて、
その後は、、、もう覚えていない。
『人を、助けてしまったの。 天使は皆に平等で在らなければならないから、私は、、、やってはならないことをやってしまった。』
彼女は真っ白な真珠の涙を流した。
『でも私後悔はしていないの、だって貴方、まだ死ぬのには勿体ないのよ、笑』
「あの時顔に降ってきた硬い何かって、もしかして君の涙だったりする、?」
『ふふ、そうね、笑 それじゃあ、私はもう天使じゃないから。 貴方が幸せになって幸せに死ねるその日まで、どこかで暇つぶししてるわ。』
「、、、 君が僕の神様でよかったよ。」
君はこっちを振り向かずにそのまま月へ旅立った。

8/13/2023, 3:48:43 PM

「君の為に桜を拾ってきたよ。」
誰かが耳元で囁いたから目を覚ました。
「あ、ちょうど目覚めたんだね。良かった。」
「、、、、おはよう、また私の為、?」
「うん?うん!そうだよ。君の身体と心の健康の為さ。」
この人はいつもそうだった。自分のことをまるで他人事のようにして面白おかしく喋る。そんな人、
「私貴方のそういう所好きよ。」
今伝えなければならない。
「え、え!!!!僕も好きだよ!?!?!?」
この人は顔が赤くなるより先に耳が赤くなる人だから、ふとした時見つめるのがとても楽しくて、まるで可愛いサクランボを吊るしてるようで少しおかしくなって笑ってしまったことがあった。
「ほら、また、耳が赤いわ。」
耳を撫でてみた。
「ああ、すっかり君の癖は定着してしまったね、笑」
私のくせ、、、、?
「あら、どんな癖かしら。」
すると彼は温かい微笑み方をして。
「僕の小耳が赤くなったときに耳を触る仕草さ。」
自分では意外と気づかないけれど、この人にはちゃんと伝わっていたようだった。
「そう、、、ねえ、好きよ。」
「分かってるよ。僕も好きだよ。」
「ええ、えぇ、そうね、、、」
「眠いかい?」
「少し、だけよ、、、」
「今寝たら、次はいつ頃目を覚ましてくれるんだろうね。」
「頑張るわ、次は、もっと、はやく、、、、」
遠くの方であの人の声が聞こえた
「うん、、、おやすみ。僕の眠り姫。」

8/12/2023, 1:24:30 PM

「最後に、君にだけ聴いて欲しくて。」
そういったある人は楽譜を持って寂しげに立っていた。
あ、そうか、そうだ。
「そうだった、君、転校するんだって、ね。」

クラスによく響いてた君の笑い声がこれから聞けないのは嬉しいようで、懐かしい物となるかもしれない。
いつも本を読むと邪魔をしてくる君が居なくなる清々しさと、そのうち止められない現実に物足りなさを感じるようになる僕が容易に想像できた。

「私、いつも君が本読むの邪魔したよね。」
やっぱりタイミングを見計らってやって来てたんだな。
「あぁ、分かってるよ。」僕への嫌がらせだろう。
彼女の顔がみるみる赤くなっていった。
「な、え、!!!!なんで!?!? 誰にも言うなってあれほど!?!?」
「なんで顔が赤くなるんだよ。 赤くしたいのはこっちだ。」 わざわざ嫌われてる人に悪口を言われに来てやってんだ。それくらい欲を言っても構わないだろ。
「あそっか、恥ずかしいよね、私!!!! ぇっ、と、」

少しずつ腹が立ってきた
「あぁもう!!!! 嫌いなら早く嫌いって言ってくれないかな!? わざわざ悪口言われに来てやってるこっちの気持ちにもなれよ!!!!」 君とのゆったりした時間は、個人的に、悪くないと思っていたのに。
「えいやまって私嫌ってないよ。私嫌ってないよ!?!もはやその逆だし!?」
逆、、逆、、?
「逆って。 どういう、、、」

バチンっ僕の両頬が大きな音とともにはたかれた。いや、挟まれたの方がいいのだろうか。
「私、、、、君の事が好きなんだけど。」
その言葉だけが、熱くなる頬と共に体をじんわりと蝕んでいった。
「、、、、は?」
君の奏でる音楽は、いつだって僕の世界を覆してしまう。 それが例え、頬を叩く音だったとしても。

Next