あん

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いつの日か君がくれたネックレスをつけて、
私は君の部屋へ来た。
部屋の持ち主はもう居ないのに、そのうち帰ってくるような無造作に置かれた洋服たちは、少しホコリっぽくなっていた。

「もう、帰ってこないよ。」
誰も居ない。 誰も、もう帰ってこないのだ。
無機物しか居ないこの部屋で、誰にも届かない言葉を私は思わず漏らしてしまった。

「、、、片付けよ、」
彼の家族から部屋の片付けは貴方にやって欲しい。 そう言われてしまえば私はもう断れないのだ。
きっとそれを知っていながら、思い出に浸りながら心を整理して欲しいと、そう思ったんだろう。

「、、あれ、?」
私の名前の書いてある箱が、誰にも見つけられないような奥深くに眠っていた。
開けてみればそこは私が彼にあげた何気ないものだった。
買い物リスト、手紙、メモ、私があげて、もう空っぽになったと言っていた香水や、ハンドクリーム。
そして、私の家の合鍵だった。
私があげて穴が空いてしまった服も入っていて思わず吹き出してしまった。
「君、どんだけ私の事好きなの、笑」

ポタっ

誰かの涙が落ちたらしい。
心当たりは無いけれど、きっと私なんだろう。

ポタポタっ

「うっ、」
嗚咽混じりのとても貧相な泣き声が、もう誰の所有物でも無い部屋に響いた。

「箱、しまんない、よ、笑」
どうせなら最後くらい。嫌って欲しかった。
私の記憶の中で、いつまでも捨てられないもの、
いつまでも思い出したくないもの。
君との思い出はきっと、この箱と同じように閉まりきらないんだろうね。

8/17/2023, 12:32:45 PM