それはまるで宝探しのようなものだ。
焦る必要はない。
時間はたっぷりある。
寧ろゆっくりじっくり探す方が何かと都合が良い。
つぷん、
確か腹の近くにあると事前情報では聞いている。
「つらく、ないですか」
桃色の媚肉が行手を塞ぐも、潤滑油をたっぷり纏わせた人差し指が優しくそこを解していく。
ぎゅっと目を瞑り、このやり場の無い熱を何とか逃そうとしている貴方。
嗚呼、なんて可愛らしくていじらしいんだろう。
早く宝を見つけてあげますからね。
理性という名の矜恃から解放してあげたい。
快楽に身を委ねる貴方を見たくって、それでも決して傷はつけないように。
それは一体どこだ。
指先がある一点を掠めると甘やかな声がまろびでる貴方。
……やっと見つけた。
反抗的な光を宿す、その瞳が大好きだ。
どれだけ屈辱的な目に遭わされても決して屈しない貴方が大好きだ。
「……早く、解放しろ」
快楽に喘ぐ唇は僕に対する憎しみを紡ぐ。
まだまだやれる。まだまだ貴方と遊べる。
その事実が嬉しくて仕方ない。
「余裕ですネ、お義父さん」
存外、低い声が出てしまった。
組み敷いた男が小さく震える。
嗚呼可哀想。どうやら怯えているようだ。
「も、う……嫌だッ」
逃れようと藻掻く手を優しく上から絡めてやる。
足りない、貴方がまだまだ足りない。
夜はまだ、始まったばかりである。
ここでの出来事が無事済んだらいつかお前とまた酒を酌み交わしたい。
お互いに約束を取り交わした。
必ずまた会おう、とも。
果たしてその約束が叶うことは無かった。
お前は記憶を失い、儂は身体を失った。
願わくばもう一度、もう一度だけで良い。
お前と楽しい酒を飲みたい。
叶わぬ夢を盃に零し、白髪のお前は腕に赤子を抱く。
ずっとずっと夢見ていた、私だけの秘密の花園。
私だけのお兄ちゃん。
甘くてふんわりして、優しい大好きな香りだ。
「そんな、匂い、嗅がないで……ッん」
「それは無理な相談です」
私は前世から貴方をずっとお慕いしていましたから。
この令和に、室町時代の忍としての記憶を持ったまま生まれ変われるなんて思いもよらなかったけれども。
もしかしたら貴方とまた出逢えるかもしれないなんて、淡い期待を抱いて只管探し続けていた。
だからこの広い世界で再会できたのは最早運命なのだ。
たとえ貴方が前世を覚えていなくても構わない。
近付くためなら何でもやった。
「初めまして……かな」
まさか、貴方も前世の記憶があったなんて信じられなかった。
忍びとして生を全うした時は告白もできずに散っていったこの命。
ならばまず貴方に言うべきことは自分の本当の想いだろう。
ふわり、花が綻ぶ。
はにかんだような貴方の顔。
それでも種々の理由を付けて断ったり、こちらを避けたりするのは織り込み済みだ。
決して無理強いはしない、けれども諦めることもしない。
幾度の挑戦の後、向こうが半ば折れてくれる形でようやっと付き合うことになった。
最終兵器「お兄ちゃん」呼びと上目遣いに涙目。
これに弱いのは前世と同じだな。
心を完全に手に入れる前にまずは身体からでも早く自分のものにしたい。
強引に押し切る形で同棲に踏み切ったし、後は時間の問題だった。
翌日お互いに仕事も学業もアルバイトも無いことを念入りに確認した後、計画を実行することにした。
しかし予想外だったのは向こうも覚悟を決めていたことだ。
いつになく遅いと思っていた風呂は、彼なりに事前に準備をしていたからだった。
……やはり敵わない。
「そんな可愛いことをしてくれるなんて、貴方って人は……」
「……ダメだった?」
「そうじゃないから困ってるんでしょうが……!」
ベッドに勢いよく押し倒す。
ふわり。また、だ。
花が綻ぶ。
優しくて穏やかな香りに包まれる。
「随分待たせちゃってごめんね」
君の好きにして良いから
花の甘ったるい香りと共にベッドに沈みこんでいく。
あなたを見ると、胸の中の小石がざわざわするの。
もうこれ以上立ち入らないでほしくて、もっと土足で入ってほしくて、仕方ないの。
二律背反、でもどちらも私なの。
あなたが私に笑むだけで、その小石は忽ち花の種になる。
手を振ってくれると、柔らかく種から芽吹く。
いつかそれが大輪の花を咲かせてくれることを願って、今日も胸の中の小石がざわめくの。